いしかわスタートアップステーション

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2007年度

最優秀起業家賞

受賞者

 

遺伝子発現情報を基盤とする疾病診断用DNAチップの事業化

 

丹野 博

(株)キュービクス

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DNAチップで肝臓がんを早期発見

高度に発達した現代の医学。しかし、現代の医学をもってしても、まだまだ不可能なことは多い。例えば、20ミリ未満という小さな肝臓がんの発見、診断もその一つ。この難題をDNAチップを使って解決しようというのがキュービクスのビジネスプランである。DNAチップとはガラス板の上に特定の遺伝子を並べたもの。同社では、金沢大学大学院医学系研究科の金子周一教授の協力を得て、肝臓がん患者に特異的に発現する遺伝子を配置。患者の血液から採った遺伝子と反応させることで、肝臓がんの診断や再発の可能性、時期の予測などに役立つ。DNAチップはこれまで、研究目的に使われることがほとんどで、今回のプランが実用化されれば、医療現場で活用される世界でも初めてのケースとなる。肝臓がんの検査には、従来、超音波を使ったエコー検査やCTスキャンが用いられるが、この方法では初期の小さな病変は見つけることができない。DNAチップを使った検査ならば、病変の大小にかかわらず診断が可能で、がん治療の決め手となる早期発見が実現する。DNAチップの試作、開発はすでに終わっており、現在は、金沢大学附属病院など北陸三県の医療機関で臨床試験の真っ最中だ。同社ではDNAチップの販売ではなく、医療機関から検査そのものを受託して収益を上げる計画を立てている。平成21年から本格的な検査に乗り出し、平成23年度には6億5千万円の売り上げを見込んでいる。

 

金沢大学が保有するデータと特許を活用

大学卒業後、外資系医療品メーカーに勤めていた丹野社長は、C型肝炎の治療薬の販売に長く携わり、北陸で18年間の営業経験を持つ。そのため、金子教授をはじめ、全国の主要な肝臓専門医との人脈を有している。事業の端緒となったのは、金沢大学が保有する約80万件という世界でも類をみない数の人の肝臓遺伝子データである。このデータの中から肝臓がん患者に特有の遺伝子を特定できれば、診断に利用できるのではないか。金子教授のこうしたアイデアをビジネスとして展開しようと、丹野社長が3年前に設立したのがキュービクスだ。金沢大学では肝臓がん患者にだけ発現する20の遺伝子を特定し、この遺伝子情報を国際特許として出願。丹野社長は事業化に向けて、金沢大学の知的財産を管理する金沢大学TLOとの間で特許専有実施契約を結んだ。平成18年12月にはバイト・食品分野の新事業創出に取り組む企業のためのインキュベーション施設「いしかわ大学連携インキュベータ(i-BIRD)」に入居。平成19年1月には、県の中小企業経営革新支援制度を利用して低利の融資を受けて解析用の設備を導入、5月には遺伝子解析の専門家を採用するなど、ビジネスプランの実現に向け、着実に歩みを進めている。

 

資本力を強化し、デス・バレー越え

今回のビジネスプランコンテストでは、審査委員から「資金提供検討」の札が2つ挙げられた。資本力を強化したい同社にとってはまさに渡りに船。その後、何社かのベンチャーキャピタルと橋渡ししてもらい、資本力の強化に向けて前向きに話が進んでいるという。ここ10年でベンチャー企業を支援する制度や仕組みは続々とできている。とはいえ、事業が軌道に乗る以前の創業間もない起業に回る資金はまだまだ少ないのが現状だ。研究の成果が製品や事業に反映されるまでの資金的な谷間は通称「デス・バレー」と呼ばれるほど。丹野社長も「ベンチャーにとって一番の難関は資金」と話し、臨床研究データの管理分析や学会の管理運営などの事業と同時に、ベンチャーキャピタルなどからの投資を受け、何とかデス・バレーを越えたい考えだ。また、コンテストでは、CTスキャンによる被爆を心配する来場者から「血液だけで診断できるなら、ぜひ検査したい」と声をかけられ、一般からの関心の高さを実感する場にもなった。「肝臓がん診断用のDNAチップを皮切りに、今後は胆管がんや糖尿病の合併症の検査などにも検査ラインアップを拡大していきたい」と話す丹野社長。地域の知的財産を活用した産学連携のビジネスモデルとして、期待は高まるばかりだ。

優秀起業家賞

受賞者

学校配布型キャリア教育支援マガジン「さくらノート」の発行

 

中山 貴之

盤水社

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仕事の魅力を紹介
総合学習のテキストにも

さて、ここからは優秀起業家賞に輝いた3つのビジネスプランを紹介しよう。盤水社の中山貴之氏が構想を練り、今年5月から隔月で発行しているのが、キャリア教育支援マガジン「さくらノート」である。B5版、32ページ、オールカラーの誌面では、地域で働くさまざまな職業の大人たちを取材し、仕事から得られる喜びや苦労、職業観などを紹介している。毎号10人以上が登場し、左官職人や自動車整備士、シェフ、システム開発者など、職種は実に幅広い。発行部数は3万部。無料で中学校と高校に配布しており、現在、金沢市、白山市、かほく市の約70校に納めている。これまで4号を発行済みで、評判も上々だ。中高生の子を持つ知り合いから「熱心に読んでいる」という声が聞けたほか、教師や生徒の保護者からも感謝の言葉を記したはがきやメールが何通も寄せられた。総合学習のテキストとして授業で活用している学校もかなりあるという。

 

こんな時代だからこそ、かっこいい大人を手本に

そもそも中山代表がさくらノートを企画した背景には、子どもを取り巻く環境への憂いがあった。テレビや新聞からは大人による悪事や犯罪のニュースばかり。中学校や高校ではキャリア教育に力を入れているものの、指導する教師自身も民間企業で働いた経験がないため試行錯誤を続けている。そして、ある教育シンポジウムでPTA関係者から聞いた次の言葉が、中山代表の背中を力強く押した。「本来大人は子どもの手本となるべき。しかし、今の時代は社会人になるための参考書がないのと同じだ」。この言葉を聞いた中山代表は、それならばとさくらノートの発行を思い立つ。企画にあたっては、職業を紹介する既存の本のように華やかな職業ばかりでは現実味が薄いことを考慮。同時に、地域からの情報発信を重視し、地元で働く等身大の大人たちにスポットライトを当てることにした。「目的をもっていきいきと働く大人はかっこいい。その姿をストレートに伝えたかった」。また、多くの子どもに読んでもらうには学校で配るのが確実だと考え、サンプルを持って各学校の校長を訪ねて配布ルートを確保していった。

 

広がる会員の輪
地域貢献や人材採用に一役

ところで、さくらノートは無料で配布しているだけに、販売収入があるわけではない。とはいえ、誌面の中に収入源となる広告は見当たらず、もちろん学校に経費を負担してもらっているわけでもない。「運営資金は志に賛同してくれる会員を募り、その会費で運営しています」と中山代表。当初はスポンサーを探すために企業に営業をかけたが、未知の媒体にお金を出してくれるところは見つからなかったために、会員による賛助制度へと方針転換したのだという。よりたくさんの職種を紹介するため、会費は新聞や雑誌の広告料と比べて格安に設定している。会員企業で活躍する社員の方々を誌面で紹介。子どもたちの健全な職業観を育成するための地域貢献、あるいは将来的な人材採用に向けた投資と考える企業や団体が賛同し、現在70社150口の会員が集まっている。ビジネスプランコンテストでの優秀起業家賞受賞をきっかけに、ますます認知度の高まりを実感。審査委員の仲介により、東京でもビジネスモデルを発表する機会を得られたという。中山代表は「キャリア教育は全国共通の悩み」と話し、現在の金沢版に続き、今後は加賀版や能登版の発行、さらに他の都道府県への展開も視野に入れている。

受賞者

金沢伝統文化を伝承する花街町屋での生活体験型の宿泊施設の提供

 

吉川 弥栄子

 

町屋を貸し切る新しい旅行スタイル

金沢を代表する人気観光スポットのひとつとして知られる「ひがし茶屋街」。昔ながらのお茶屋が軒を連ね、通りを歩けば三味線の音がもれ聞こえてくる。吉川弥栄子氏が提案したのは、そんな金沢の伝統文化が今なお息づく茶屋街にある町家を宿泊施設として提供し、旅行客に金沢の歴史や文化を心ゆくまで堪能してもらおうという事業だ。吉川氏はもともと芸妓で、平成10年からはひがし茶屋街の一角でワインバー「照葉」を経営している。プランの実現に向けて、今年6月にはひがし茶屋街のメインストリートから一本入った路地にある、昭和初期に建てられた一軒の民家を購入した。約26m2の敷地に建つ木造2階建てで、1階が6畳間、台所、風呂、トイレ、2階が4畳間と6畳間となっている。営業開始を前に、すべての内壁を塗り直したほか、台所にはIHクッキングヒーターを組み込んだシステムキッチンを整備し、風呂やトイレも最新の設備に改修した。本格営業は平成20年1月からで、料金は1泊1〜4人で平日2万5千円、休前日3万円を予定している。

 

年々減少する町屋の保全にも一役

このビジネスプランは、吉川氏自身が京都の町家で宿泊した体験が素地となっている。「一軒家すべてを自分たちで使えるので、誰にも気兼ねせずにのんびりとくつろぐことができた」と話す吉川氏。例えばホテルには和室がなかったり、旅館では食事や風呂の時間が決まっていたりと、宿泊施設はそれぞれに一長一短がある。しかし、町家を貸し切るスタイルならば、過ごし方は自由自在。乳児を抱えた家族連れや和室でくつろぎたい年配の旅行客にもメリットを感じてもらえると考えたのだ。地元で暮らしているように滞在を楽しめるのも魅力の一つだ。気が向いたときに気軽に散策できる上、食事はお目当てのレストランまで出かけてもいいし、旬の食材を買い込んで自炊してもいい。門限もなく、のんびりと朝寝も楽しめる。また、茶屋には見ず知らずの客を断る「一見さんお断り」のしきたりがあるが、宿泊客は吉川氏の紹介で華やかな茶屋遊びを体験することも可能だ。もちろん、地域のにぎわい創出や魅力アップに一役買うという側面もある。ひがし茶屋街では、みやげ店やカフェが充実する一方で、2〜3年前まで営業していた民宿の廃業以降、宿泊出来る施設が皆無となっていた。町屋の保全と活用促進という意味でもモデルケースとなりそうだ。戦災を受けていない金沢には多くの町屋が残っており、伝統的な町並みを形成している。とはいえ、建物の維持、管理が難しく取り壊されるケースも多い。今後、町屋に宿泊したい旅行客が増えていけば、町家の保全、再生がさらに活発化するに違いない。

 

同窓会での利用など広がる用途に驚き

古川氏はビジネスプランコンテストの際、芸妓姿でプレゼンに臨み、会場を華やかに彩った。当初は定年退職した団塊の世代をメインターゲットと考えて提案したが、女性審査委員からは「むしろ若い人が好みそう」との感想が聞かれ、新たな可能性を発見できたという。優秀起業家賞受賞後は新聞やテレビに取り上げられる機会も増えた。「ちょっとした同窓会に使いたい」などの問い合わせが寄せられ、旅行客の宿泊用以外にもニーズの広がりを感じている。さらに、「使っていない町家を利用してほしい」との要望も寄せられ、町家の保全、活用にも手ごたえを感じている。「1軒目が順調にいけば、将来的には増やしていきたい」と期待をふくらませる吉川氏。金沢における新しい旅行スタイルに注目が集まる。

受賞者

新電子納品(情報共有+保管管理)システムのASPサービス事業

 

百成 公鋭

(株)アイサス

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電子納品などに対応
省力化をサポート

公共事業は減少の一途をたどる一方で、煩雑な書類の作成によって残業時間は増えるばかり。建設業の抱えるそんな問題点を解決しようというのが、アイサスの百成公鋭社長が提案した電子納品システムのASPサービス事業である。同社が開発したシステムの導入によって、土木・建設工事を受注した企業は、施工中に発生する書類や図面、写真をサーバーに登録し、社内はもちろん発注者との間で情報を共有することが可能になる。従来は紙の書類で行っていた確認や承認がインターネットを介してできるため、何度も発注者の元へ足を運ぶ手間が省け、事務作業やコストの軽減、納期の短縮が実現する。公共工事では現在、入札や納品などの事務手続きを電子化するCALS/ECの導入が進められており、こうした需要にも対応する。システムは、顧客がインターネットを通じて利用するASP形式によって提供されるため、ユーザーは運用管理の負担が軽くなる。すでに石川県建設業協会が導入しており、加盟各社が利用。平成18年度は石川県が発注する50件の工事で試験運用されたほか、今年度は200 ~ 250件の工事で利用される見通しだ。さらに、岡山県でも採用が決まっているほか、西日本の2府県でも試験運用がスタートしている。百成社長は「全国の都道府県が発注する78万件以上の工事が対象となり、市場は400億円以上になる」と試算し、今後も全国での営業展開に力を入れる構えだ。

 

地元企業が連携して開発
現場が使いやすいシステムに

今回のビジネスモデルがユニークなのは、地元の建設・土木企業やシステム開発企業などが連携して開発にあたった点にある。通常、こうしたシステム開発の場合、発注者である自治体が主導権を握り、大手ITベンダーが開発を請け負うことが多い。しかし、この手法では莫大な予算がかかる上、出来上がったシステムは利用者にとって使い勝手がよくないというデメリットがあった。アイサスの場合、地元企業がそれぞれのノウハウを持ち寄って開発し、ASPとして提供するために、自治体の負担は必要ない。実際に工事を請け負う企業と開発を担当するプログラマーがコミュニケーションをとりながら開発をすすめることで、使い勝手の良いシステムが完成した。昨年の試験運用においても、約90%の利用者が使いやすいと評価したほか、平均で30%近く作業時間を短縮できたという。「コンテストで認められたことで、金融機関へもいいアピールになった」と話す百成社長。今後は支援チームのバックアップを受け、全国展開や将来の上場に向け、資本制作を強化する考えだ。