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ISICOでは、企業の成長をサポートするためさまざまな支援制度を用意しています。
制度を利用して事業の拡大に成功した企業の取り組みを紹介します。
昭和40年代から国内の大手時計メーカー向けに歯車や文字盤、針など精密部品を製造するプレス機を納めるなど、一品一様のものづくりに定評のある伊藤工業。景気に急ブレーキがかかったリーマンショック後は苦戦を強いられたが、ISICOが派遣する専門家やスタッフのアドバイスを受けて原価低減に取り組むなど、しっかりと利益を出せる経営体質へと改善を図り、黒字化を成功させている
シチズン時計など大手メーカーにプレス機や専用機などオーダーメードの産業機械を納める伊藤工業は、規模は小さくてもきらりと光る企業だ。
大手メーカーから支持される理由の一つは産業機械そのものだけでなく、搬送装置などその部品の生産に必要な周辺機器も一括して製造する点にある。一般的には産業機械や搬送装置などはそれぞれ別の会社が製造することが多い。その場合、発注企業にとっては何社ともやり取りしなければならず面倒だが、伊藤工業であれば丸ごと受注できるので、こうした負担が軽減される。
高精度の加工を可能にする産業機械の品質も折り紙付きだ。産業機械の性能アップを図るためにこだわっているのが、機械を構成する部品一つ一つの精度と組み付け時の精度だ。ある大手メーカーが、伊藤工業の機械を点検しようと納入から10年後に分解したところ、主要部品の摩耗が少なくて驚いたというエピソードも部品や組み付けの精度を裏付けていると言えるだろう。
同社のこうした優位性が評価され、長らく売り上げの上位を占めてきた時計部品用に加え、近年では大手自動車部品メーカーへの納入実績も増えている。
販路拡大の契機となったのはリーマンショックによる不況だった。同社の伊藤准一社長の長男で、ちょうどこの頃に入社した伊藤徳幸営業部長は当時について、「リーマンショック後は赤字に転落し、資金繰りも悪化しました。何とかしなければと商談会や展示会に参加しながらビジネスチャンスを探り、大手自動車メーカーとの取引につなげることができました」と振り返る。
販路拡大と同時に平成24年度からはISICOの専門家派遣制度を活用して経営計画書を策定し、経営改革にチャレンジした。
取り組みの一つが製造台帳の活用だ。本来、同社のような一品一様のものづくりの場合、価格決定権は受注側にある。しかし、同社の場合、製造台帳の管理が徹底されておらず、材料費やモーターなどの購入品費、外注費が受注金額の70%を超えてしまい、十分に利益を確保できないことが多かった。
こうした状況を打破するため、伊藤工業では材料費や購入品費、外注費の合計を受注金額の50%以下に収めることを目標とし、取引先に対してはしっかりと技術的な優位性をPRして粘り強く値上げ交渉を行ったほか、材料費などの低減に取り組んだ。
また、変形労働時間制の導入で残業代コストを抑制したことも成果の一つだ。きっかけは、専門家から「一流大手企業並みに休日が多い上、年間の就業時間数も法定労働時間をかなり下回っている」との指摘を受けたことだった。そこで同社では会社の休日を定めたカレンダーで出勤日が4日以下の週については、1日の労働時間を2時間増やすという就業規則に改めた。
改定に当たっては社員に対し、土曜の出勤日を増やす案も合わせて示した上で、賛成意見の多かった現在のやり方を採用した。
一方で、これまでは1日単位でしか取得できなかった有給休暇を、時間単位でも取ることができるように就業規則を変更した。これによって、子どもの学校行事や家の都合で少しの時間だけ仕事を休みたい時にも有給休暇が取りやすくなった。
また、出勤日が4日以下でも、仕事が混み合っていなければ、時間単位の有給休暇取得を奨励するなど、弾力的に運用し、柔軟な働き方ができるように努めている。
こうした取り組みの結果、同社では平成25年度には黒字化。それ以降も経営状況の改善が続いている。同社に対しては今もISICO経営支援部スタッフが製造台帳や資産表を継続的にモニタリングしながらバックアップを続けている。
業績が少しずつ安定してきたことを受け、伊藤部長は「今後、リーマンショックのような大きな波に襲われたとしても、さらわれてしまわないように経営体質を強化し、成長しながら生き残っていきたい」と話す。
そのために販路拡大や原価率低減とともに力を入れているのが人材の確保だ。同社では社員の8割が技能士の資格を持ち、部品一つ一つを職人技で仕上げている。ベテラン社員が数年に一人のペースで定年退職を迎えるなか、人材育成に長い年月がかかることを踏まえ、伊藤部長はハローワークに足繁く通うなど採用活動に力を入れ、既に中途採用で結果が出始めている。技能継承に役立てようと、今秋にはISICOのサポートの下、ものづくり補助金の採択を受け、万能研削盤を導入するなど、設備投資も進める。
このほか、さらに競争力を強化するため、IoTの活用も視野に入れる。例えば、産業機械にセンサーを搭載し、取引先で使用している最中に振動を関知した場合は部品交換を促すメッセージを表示するなどして製品の付加価値をアップさせるといった具合だ。今後、具体的な活用法を検討するため、社内でプロジェクトを立ち上げる計画で、伊藤部長は「とがった技術や製品、人材で企業の優位性を高めていきたい」と意欲を燃やしている。
企業名 | 伊藤工業 株式会社 |
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創業・設立 | 創業 昭和23年2月 |
事業内容 | 産業用機械の設計・製造、販売 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.96より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.96 |