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地方創生が叫ばれるなか、石川県内でもUIターンしてきた移住者による起業が増えてきた。こうした動きは地域経済の活性化や新たな雇用の創出だけでなく、埋もれていた地域資源の掘り起こしや新たな魅力づくりにもつながると期待がかかる。そこで今回の巻頭特集では、県内各地にUIターンし、生まれ育ったふるさとで、あるいは新天地で事業を立ち上げ、奮闘する3組の取り組みについて紹介する。
「世界へ」の社長を務める中村充宏さんが約3年前から手がけているのが、和包丁を海外へ販売するネットショップの運営である。和包丁は福井県越前市をはじめ、大阪府堺市、岐阜県関市などの職人が一本一本手作りしたもの。海外製に比べて切れ味が鋭いと評判で、世界各国で活躍するシェフから注文が寄せられ、月間1,000本以上を売り上げる人気ぶりだ。
実際に包丁を持った感覚を確かめたいとの要望もあることから、平成28年11月にはアメリカ・ポートランドに実店舗をオープン。販売に加え、切れ味の悪くなった包丁を研ぐメンテナンスサービスを提供するほか、レストランに出張してマグロの解体イベントを開催するなどして、売上数の多いアメリカでのPRに一役買っている。
中村さんは小松市出身で、イギリスの高校や大学に4年間留学し、日本の企業に勤めた後、海外で生活したいとの思いからハワイの企業に就職。アロハシャツなどを販売するネットショップの立ち上げを手がけ、年商3億5,000万円を売り上げる繁盛店に育て上げた。
その後、就労ビザの期限が迫ってきたことをきっかけに独立を考え、地元にUターンして起業。ハワイで学んだノウハウを生かし、九谷焼など石川県の伝統工芸品を海外に販売するネットショップを開設した。しかし、事業はうまくいかず、このままではいけないと新たな商材を求めて訪れた展示会で出会ったのが越前市の職人が作った和包丁だった。その美しさと切れ味に感激した中村さんが試しにネットショップで和包丁を販売したところ、手応えがよかったため、和包丁に特化した専門店として新装オープンした。
世界へのネットショップは、今では150カ国以上と取引する人気店に成長したわけだが、成功の秘けつはどこにあるのだろうか。
中村さんによれば、その一つが在庫を持たずに始め、初期投資を抑えたことだ。「売れるか分からない商品を仕入れると在庫リスクを抱えることになるので、最初は商品を写真に撮らせてもらって掲載しました」(中村さん)。ただし、注文した商品が仕入れ先に残っていなければ商機をふいにしてしまう。そこで、ある程度注文データが蓄積したら、それを分析し、売れ筋商品を仕入れるようにしたという。さらに、なぜその商品が売れるのかを分析して、共通項のある商品をラインアップに加え、売り上げを伸ばした。
SNSを活用した情報発信もポイントの一つだ。中村さんの場合はインスタグラムとフェイスブックを活用。「より情報を発信している会社がより印象に残る。余力でやるのではなく、仕事として取り組むべき」と話す通り、ほぼ毎日記事をアップし、商品の良さを写真とともに紹介するだけでなく、製造工程や切れ味を見せる動画も掲載する。
また、中村さんは海外をターゲットとする際は、単に英語版のサイトを作るだけでは不十分と警鐘を鳴らす。
「例えば、海外では本格的な和食店でも、味噌汁をスープボウルとレンゲで食べますから、漆器の汁椀をそのまま売るのは難しい。まず現地の食習慣を学び、商品開発から取り組むべきです」(中村さん)。
中村さん自身も個性的なデザインを好む外国人のニーズに応えるため、ISICOの支援を受け、柄や鞘に漆塗りや沈金を施したオリジナル商品を開発。こちらも人気を集めている。
「今後は多店舗展開と多言語展開を進めたい」と話す中村さん。地元石川のものづくり産業との連携にもますます力を入れていく考えだ。
企業名 | 株式会社 世界へ |
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創業・設立 | 設立 平成27年12月 |
事業内容 | 和包丁のネット通販 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.96より抜粋 |
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掲載号 | vol.96 |