本文
各種支援制度の利用者に聞く
ISICOでは、企業の成長をサポートするためさまざまな支援制度を用意しています。
制度を利用して事業の拡大に成功した企業の取り組みを紹介します。
太陽テクノリサーチは、精度の高いアスベスト検査を低価格で提供し、急成長を遂げている。その要因は、料金体系や検査方法をホームページで利用者に分かりやすく明示するなど、顧客満足の追求にある。従来は一部の特殊なものを除き、検査業務を外注していたが、2年前に必要な機器と専門のスタッフをそろえ、社内でできる体制を整えた。結果をよりスピーディーに報告できる体制を整え、その満足度をさらに高めている。
耐熱性や保温性、絶縁性に優れ、加工しやすく腐らない特性から、かつては内外壁に使う断熱材や耐火材などとして大量に使用されたアスベスト。少量でも吸い込むと数十年後に肺がんや中皮腫を起こす危険性から、平成18年9月に製造が禁止された。しかし、それ以前に造られた建物を解体する際にはアスベストが大気中に飛散する恐れがあるため、太陽テクノリサーチには施主や解体業者から多くの検査依頼が寄せられている。
2年前、試料にX線を照射し成分を分析するX線回折装置と、アスベスト特有の光学的性質を観察する位相差・分散・偏光顕微鏡のほか、1万倍の倍率に拡大しアスベストかその他の繊維かを判定する走査電子顕微鏡を導入すると同時に、3名の検査スタッフも採用した。
そもそも大門忠司社長が一人で立ち上げた事業であり、従来は、検査業務を協力企業に外注していたが、これによって受注数の約50%を社内で検査できるようになった。
一番のメリットは納期の短縮だ。これまでは顧客から送られてくる建材などのサンプルを協力企業に検査してもらい、その分析結果が出るまでに約1週間かかったが、社内で検査すれば最短即日で結果を報告できる。「解体中にアスベストを含んでいるかもしれない建材が予期せず出てくる場合があります。本当にアスベストが入っていれば、飛散しないように対策を講じる必要がありますから、検査結果が出るまで工事を中断しなければいけません。お客様にとってみれば、なるべく早く結果を知りたいので、そんなニーズに応えるために思い切って設備投資しました」(大門社長)。
同社では、スピード対応だけでなく、検査費用でも他社との差別化を図っている。例えば、建材の中にアスベストが基準値(0.1%)以上、含有しているか否かを検査する際の価格は24,000円だ。これは業界でも最安値を争う価格である。
低価格を実現できる要因は二つある。一つ目は検査対象をアスベストに特化したことだ。検査事業を手がける場合はさまざまな項目を総合的に引き受けるのが一般的だが、これでは多種多様な機器が必要となり、投資がかさむ。その点、太陽テクノリサーチではニーズが多く、少人数でも対応可能なアスベスト業務に絞り込み、効率化を実現した。
二つ目は営業専任スタッフを置かないことだ。その分、経費がかからないのはメリットだが、販促活動にはマイナスだ。そこで同社では、利用者を開拓するためにホームページを活用している。
同社のホームページの最大の特徴は、価格や納期、分析方法について、詳細に掲載している点にある。検査業界では従来、そういった情報をあまりオープンにしてこなかったが、大門社長は「これではあまりに不透明で利用者が安心して発注できない」と慣例を打ち破った。
こうした取り組みが奏功し、新規利用者のほとんどはホームページか口コミで同社のことを知って発注する。石川だけでなく、全国から注文が舞い込み、業績はここ数年、右肩上がりで推移。平成28年は前年比30%増となる検査を受注した。
ところで、同社では現在、水質検査にも取り組んでいる。食品工場や病院、飲食店などがリピーターとして定着したことから、多くの依頼があり、アスベスト検査に続く、事業の柱として成長している。
事業化のきっかけとなったのが、ISICOが主催する「革新的ベンチャービジネスプランコンテスト」への出場だった。大門社長は平成20年の同コンテストで、価格や納期、分析方法などを明示した上で、低価格で水質検査を提供する事業計画を発表し、優秀起業家賞を受賞。「それまでは漠然とした思いだけで走っていたが、今後の方向性を整理して考えるいい機会になった。大勢の皆さんの前で発表したからには、何としても実現しなければいけないと思った」(大門社長)と実行に移し、事業を軌道に乗せた。
その後もISICOの専門家派遣制度を利用してホームページのリニューアルや事業計画書のブラッシュアップなどに取り組んだ。例えば、ホームページドクターのアドバイスを受けた際には、閲覧者の動向を分析した上で、よく見られているページの情報量を充実させ、あまり見られていないコンテンツを削除するなど、改善につなげた。
今後の事業展開について大門社長は「アスベスト検査が好調なので、さらに受注を伸ばしていきたい」と意欲を示す。その大きな武器となりそうなのが、走査電子顕微鏡だ。これはISICOのサポートを受け、国のものづくり補助金を活用して導入したもので、アスベストがどの程度含まれているかをより詳細に分析することができる。同業他社にアスベスト検査用として保有している企業はほとんどないことから、そうした企業からの受注が期待できる。
また、解体前に設計図書を精査したり、建築物を確認したりして、アスベストの有無や含有箇所を報告書にまとめるアスベスト調査も今後ニーズが伸びる分野である。これに対応するため、大門社長は調査に必要な建築物石綿含有建材調査者の資格を取得した。
大門社長によれば、建築物を解体する際のアスベストに関する事前調査などの規制は徹底、強化される傾向にある。同時にアスベストを含む建材を使った建築物が今後寿命を迎えることから、環境省では建築物の解体によるアスベスト排出量は平成32年から約20年にわたりピークを迎えると予測している。
ますます増えるニーズをいかに取り込むか。同社の取り組みに今後も期待したい。
企業名 | 太陽テクノリサーチ 株式会社 |
---|---|
創業・設立 | 設立 平成18年6月 |
事業内容 | アスベスト調査、水質検査など |
関連URL | 関連URLを開く |
---|---|
備考 | 情報誌「ISICO」vol.91より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.91 |