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モノをインターネットにつなげるIoT(Internet of Things)を有効活用して、ものづくりを革新しようという動きが注目されている。生産設備や工場全体をネットワーク化し、さまざまな情報を収集したり、蓄積されたデータを分析したりすれば、生産性や品質の向上につながり、新たなサービスの創出や付加価値を高めることにも役立つ。今回の特集ではIoTを活用する県内企業の取り組みと、導入をサポートする石川県ものづくり産業等IoT化推進研究会について紹介する。
高度な板金・塗装技術と最先端の設備を駆使し、半導体製造装置や工作機械の筐体やフレームなどを製造する小林製作所。1カ月に3万種以上の製品を扱い、1個から数百個単位の量産まで、顧客の幅広いニーズに応えている。
このような超少量・超多品種生産を実現するために、大きな役割を果たしているのが同社独自の生産管理システム「Sopak(ソパック)-K」である。このシステムでは顧客や納期、材料、図面、作業者、作業の進捗状況、単価、原価など、さまざまな製造情報を一元管理し、社員全員がリアルタイムに共有している。
そして、同社の取り組みの最大の特徴と言えるのが平成19年に導入したカイゼンカメラシステム「Sopak-C」である。工場や事務所には全部で180台のカメラが設置されており、一定の間隔で静止画像を撮影し、工場全体のすべてを保存。いつ、誰が、どこで、どのような作業を行っているかを瞬時に把握できる。また、日時や作業者、製品、工程といった項目で過去の画像を絞り込んで閲覧することが可能で、これによって品質向上や納期短縮、技能の伝承に役立てている。
カメラの画像がどうすれば品質向上などに役立つのか、詳しく説明しよう。
例えば、同じ製品を作っているのに作業効率のいいAさんと時間がかかるBさんがいたとする。Sopak-Cではこの二人が作業している様子を画面に並べて再生し比較できる。これを使えば作業内容を分析することが可能で、その結果をもとに作業をカイゼンすれば、効率がアップする。
また、納品から一年後になって顧客から不具合を指摘されたとしよう。しかし、作業者の曖昧な記憶だけでは原因を明らかにするのは困難である。ここでSopak-Cを活用すれば、当時の作業を画像で確認でき、不良の原因と範囲を突き止められるので、その後の対策に生かすことが可能だ。
こうした取り組みの結果、導入前に比べ、生産性が20%以上も向上し、不良率も低減した。同社の小林靖典社長は「ものづくりにおける究極のトレーサビリティー・システムを実現した」と語る。
平成24年には中小企業IT経営力大賞で最高賞の経済産業大臣賞を受賞し、3年前からは他社へのシステム販売を開始。機械部品製造や食品製造などを中心に約40社に納入実績があり、好評を博している。
とはいえ、カメラで記録と聞くと、常に監視されているようで息が詰まると感じる人もいるのではないだろうか。この点について小林社長は次のように説明する。「工場だけを一方的に撮影しているわけでなく、管理部門にもカメラを設置して、お互いの様子を確認できるようにし、コミュニケーションツールとして活用している。カメラは作業エリアのみを記録しているので、休憩したい時はそのエリアから外れることもできる。むしろ地道な頑張りがカメラで評価されるのでうれしいとの声も上がっている」。
同社がシステム開発に取り組み始めたのは昭和50年代半ばにさかのぼり、パソコンに詳しい小林社長自らがその中心を担ってきた。今では5~6人のチームが日々システムの改良を進めており、モバイル端末や各種センサーと組み合わせた新たなシステムも開発中だ。
中小企業にとって自前でシステム開発することはハードルが高いが、小林社長は「最先端技術ばかりを追いかける必要はないが新しい技術に触れて、自分たちが導入効果をよく理解できるシステムを早く入れることが大切」とアドバイスを送る。
企業が抱える課題をいかに解決し、競争力アップにつなげるか。IoTの活用がその後押しになるのは間違いなく、日本のものづくりを支える中小企業でも導入が加速するに違いない。
企業名 | 株式会社 小林製作所 |
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創業・設立 | 設立 昭和22年4月 |
事業内容 | 精密板金・組立・塗装・提案型設計、システム開発・販売 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.90より抜粋 |
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掲載号 | vol.90 |