【巻頭特集】“IoT”を原動力にものづくりの革新目指す　必要な情報を収集、一括管理するシステムで企業のIoT化を後押し　～(株)別川製作所

【巻頭特集】“IoT”を原動力にものづくりの革新目指す

モノをインターネットにつなげるIoT（Internet of Things）を有効活用して、ものづくりを革新しようという動きが注目されている。生産設備や工場全体をネットワーク化し、さまざまな情報を収集したり、蓄積されたデータを分析したりすれば、生産性や品質の向上につながり、新たなサービスの創出や付加価値を高めることにも役立つ。今回の特集ではIoTを活用する県内企業の取り組みと、導入をサポートする石川県ものづくり産業等IoT化推進研究会について紹介する。

常時監視で巡回不要　遠隔操作で集中管理

　各種施設の隅々にまで電気を行き渡らせ、制御する配電盤や分電盤、制御盤を製造する別川製作所。一方で工場の生産ラインなどを管理したり、遠隔監視したりするためのシステム開発も得意としている。
　同社が提供するサービスの中でも企業のIoT化を後押しするのがWeb対応施設運用支援システム「e’Meister（イー・マイスター）」である。このシステムでは施設内のさまざまな機器の状態や計測値をセンサーなどにより収集し、一括管理する。収集した情報はパソコンやタブレット端末、スマートフォンでいつでもどこでも閲覧可能。機器に故障などの異常があれば、メールなどで通知してくれる。
　導入事例の一つを紹介すると、大学やケーブルテレビ局では、熱に弱いサーバや情報機器を設置している部屋の室温を温度センサーで常時監視するためにe’Meisterを活用している。室温が上がりすぎた場合は保守担当者に自動で通報するほか、エアコンの設定温度も自動制御する。
　e’Meisterを導入するためには、サーバなどの情報機器を施設内に設置する必要があったが、平成26年からは県内IT企業と連携し、クラウドを活用したサービスの提供を開始することで、導入時のコスト軽減を実現した。
　IoT推進に取り組む企業にとってもメリットの多いシステムだけに、同社の別川稔社長は「積極的に営業をかけたい」と商機の拡大に意欲を示している。

自社でもIoT 推進のプロジェクトをスタート

　顧客への提案だけでなく、別川製作所の工場内でも今年4月からIoTプロジェクトがスタートしている。
　同社の工場では約20年前からシステム化に取り組んでおり、原材料の入出庫管理や進捗管理、納期管理など生産工程上のすべての情報を一元管理し、これらの情報を元に基幹物流システムが製品や部品の搬送を管理することで、納期短縮につなげてきた実績を持つ。今回のプロジェクトでは、こうした取り組みをさらに進め、生産設備から得られたデータを生産効率や品質の改善、工場内の保全に生かす計画だ。
　例えば、板金加工した筐体(きょうたい)を塗装する工程では、室温や湿度、塗料や溶液の温度などをセンサーで測って、データを収集し、品質との関連性を分析することで、良品を生産するために最適な加工条件を導き出す。IoTのメリットを生かすには情報の収集や蓄積された膨大な量のデータをいかに活用するかが重要なポイントであり、今後、どのような成果が得られるか期待したい。

　また、各種生産機器の点検もIoTによる省力化を検討する。現在は生産機器の電流値などを保守担当者が目視でチェックし、用紙に手書きして管理しているが、これをIoTの活用によって自動的にデータ収集するように改め、作業負担の軽減を図る。

データを収集、分析し新たな事業展開も

　データを収集し、「見える化」するだけでなく、いかに分析して活用するか。この点における同社の取り組みをもう一つ紹介したい。
　別川製作所では今春、オリックス（東京）の太陽光発電事業に協力し、本社工場の屋根に約8,000枚の太陽光パネルを設置した。同社ではかねてから太陽光発電を取り入れた電力供給システムも販売しており、設置後にメンテナンスの依頼を受けることもあった。そこで、自社に取り付けられた太陽光パネルから発電量の経年変化や不具合に関するデータを収集し、今後の発電システムの運用支援に役立てるほか、新たにメンテナンス事業にも乗り出す方針だ。
　「自社で蓄積したノウハウはユーザーに還元していきたい。どのものづくり企業もIoT に取り組まなければいけないとの認識はあるが、どこから取り組めばいいのか悩んでいる。そんな企業の助けになれば」と話す別川社長。IoTプロジェクトの成果を楽しみに待ちたい。