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金沢市と野々市市で銭湯を経営するYou&ゆグループが、石川県産の果物や野菜を使ったアイスキャンディー「金沢五彩アイスポップ」の製造・販売事業に乗り出した。事業化にあたってはISICOが原料の仕入れ先を紹介するとともに、マーケティングや販路開拓を支援。首都圏で展開するスーパーやコンビニエンスストアと取引が始まるなど、今年3月の発売以降、売り上げは順調に伸びており、同グループでは事業の新たな柱として期待をかけている。
金沢市産のリンゴや小松菜、野々市市産のキウイ、能登町産のブルーベリー、内灘町産の牛乳-。金沢五彩アイスポップはこうした石川県産の新鮮な素材をたっぷり使ったアイスキャンディーだ。その名の通り色鮮やかで美しく、一口大にカットした5 種類の果物を入れたもののほか、ルビーグレープフルーツ2 個分の果汁や果肉を閉じ込めたものなど、5つの味をラインアップ。このほか、果物や野菜の旬に応じた季節限定フレーバーが登場する予定である。
ヘルシーで安心して食べられる点も特徴の一つだ。材料である果物や野菜のほかは、北海道産のテンサイを原料としたビートグラニュー糖を使っているだけで合成甘味料、人工着色料は一切使っていない。そのため、後を引かないさっぱりとした自然な甘さで、果物をそのまま食べているような食感やジューシーさを味わえる。その上、独自に確立した非加熱殺菌法を用いているので、果物の栄養分が失われることもなく、食感も残る。
今年3月の発売以降、You&ゆグループが経営する「ぽかぽか御経塚の湯」「諸江の湯」のほか、「マルエツ」をはじめ首都圏で展開するスーパーやカタログギフト大手「リンベル」のカタログでも取り扱いがスタート。売れ行きは右肩上がりで、5月には約4,200本を販売した。
また、香林坊大和の地下1階でISICOが運営する「かがやき屋本店」のチャレンジコーナーに5 月26日から31日まで出店し、会期途中で追加納品するなど売り上げも好調だった。さらに6月からは東京と神奈川の「ナチュラルローソン」で発売されるほか、東武百貨店のお中元カタログへの掲載が決まっており、6月だけで約1万8,000本の販売を見込んでいる。
銭湯を経営する同グループがアイスキャンディーを作ることになったきっかけは、平成25年に店内で地元産の野菜や果物を売り始めたことだった。翌年には店内の喫茶スペースでそれらの野菜や果物を使った健康スムージーの販売を開始。そして平成27年春にはアイスキャンディーの試作をスタートさせるわけだが、坂本総括部長はその時のことを次のように振り返る。
「金沢市は1 世帯当たりのアイスクリーム・シャーベット年間消費金額が全国トップです。それに、入浴後は暑いですから温浴施設ではそれらがよく売れます。しかも年間を通じて売れるので、大手メーカーの話ではスーパーやコンビニよりも販売量が多いそうです。それならばうちでも作ってみようかなと考え、商品化に取り組むことにしました」。
健康増進効果の高い銭湯を経営する企業だけに、目指したのはヘルシーな商品づくりであり、当初は健康スムージーを家庭用冷凍庫で凍らせることから始めた。
開発を進めるうちにハードルとなったのが果物の殺菌方法だった。厚生労働省の基準では、氷菓の原材は68℃で30分間加熱殺菌するか、これと同等以上の効果が得られる方法で殺菌しなければならないと定められている。加熱殺菌すれば、果物本来の栄養分は失われてしまい、目指す商品ができないため、別の方法を探ったが、これまでに加熱殺菌と同等以上の効果があると認められたのは、高濃度の次亜塩素酸ナトリウムに原料を漬け込む方法だけだった。
ただし、この方法では残留塩素が体内に入って、健康に害を及ぼす恐れもある。そこで坂本部長は市販の電解水生成機を活用し、弱酸性電解水を使った非加熱殺菌法にチャレンジした。前例のない方法だけに、最適の塩素濃度や浸漬時間を求めて何度も試験を繰り返し、残留塩素がゼロで果物の栄養分を損なわずに殺菌する方法を確立。加熱殺菌と同等の効果があることを検査機関に検証してもらい、厚生労働省からのお墨付きを得た。
こうして今年1月、石川中央保健所からアイスクリーム類製造所の開設許可を取得。「ぽかぽか御経塚の湯」の一角を製造所として改装したほか、食品衛生管理の国際基準「HACCP(ハサップ)」に準じた衛生管理体制も構築した。
果物を美しく配置するため、製造所内ではアイスキャンディーを1本1本、丁寧に手作りしている。
「後発メーカーですから既存の商品との差別化が必要であり、それが健康や安全・安心を意識した商品開発につながりました。見た目の美しさにこだわったのも差別化の一環です。食べ物は味覚だけでなく、視覚や嗅覚で味わうもの。だからひと目見ておいしそうと思ってもらえる商品を作りたかったのです。地元産の原料を使うのも、単に新鮮だからというだけでなく、生産者の顔が見えて安心だからです」(坂本部長)。
You&ゆグループにとって、自社商品を製造、販売するのは初めての試みだ。それだけに原料の調達やマーケティング、販路開拓といったノウハウのない部分に関してはISICOのサポートが大きな助けとなった。
活性化ファンドの事前調査事業の採択を受けて果物や野菜の仕入れ先として北国青果を紹介してもらったこともその一つだ。坂本部長は「冬の間、雪の下で寝かせて糖度が増した白山市産のニンジンなど、自分たちでは得られない開発のヒントとなるような情報を得ることができた」と笑顔を見せる。
また県とISICOが昨年11月、東京都内のホテルで開催した「石川のこだわり商品ビジネスマッチング」に参加。有名百貨店や大手通販会社など33社のバイヤーと名刺交換し、先に述べたスーパーなどとの取引が実現した。さらに、この商談会では試作品をバイヤーらに評価してもらい、容量を見直すなど改良につなげた。
現在、四季それぞれに5つのフレーバーをそろえ、計20種類までラインアップを増やそうと試作を続けており、ゆくゆくは年間20万本の製造を目指す計画だ。松永日出男社長は「国内では週1 軒のペースで銭湯が廃業している。アイスキャンディー事業を軌道に乗せて経営の新たな柱を育て、日本の銭湯文化を守っていきたい」と意気込んでいる。
企業名 | 有限会社 ぽかぽか(You&ゆグループ) |
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創業・設立 | 創業 昭和57年 |
事業内容 | 一般公衆浴場業、アイスクリーム類製造販売業 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.88より抜粋 |
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掲載号 | vol.88 |