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「いしかわ産業化資源活用推進ファンド(活性化ファンド)」の採択企業、各種展示会の出展企業の商品等にスポットを当てます。
我戸(がと)幹男商店では、積極的にデザイナーを活用し、現代の生活空間に合った山中漆器を生み出している。その最新作が「TSUMUGI(つむぎ)」シリーズと名付けられた汁椀だ。産地に受け継がれてきた伝統的なフォルムにさらに磨きをかけたこの汁椀は、デザイナーと連携して開発してきたこれまでの商品よりも生産性や利益率をアップさせることに成功。昨年秋の発売以降、順調に売り上げを伸ばしている。
TSUMUGIシリーズはケヤキを使い、職人が一つ一つ手作りした汁椀である。形状は全部で10種類。山中漆器の産地で400年にわたって受け継がれてきたものをベースに、東京在住のデザイナーである石崎育味さんが現代の使い手の感性にマッチするようデザインし直した。
産地で受け継がれてきた伝統的な形状には、それぞれに意味や思いが込められており、例えば、瓢(ひさご)型は古くから薬入れに使われたひょうたんの形を模していて無病息災を意味するといった具合だ。商品にもこうした解説を入れることで、消費者が快気祝いや結婚祝いなど目的に応じて購入しやすくするとともに、贈り手の気持ちを伝えやすくしている。
10種類の汁椀には、それぞれブラック、レッド、ケヤキ本来の色味を生かしたプレーン、木目が美しく浮かび上がる拭(ふ)き漆の4色をラインアップする。拭き漆を除く3色は、漆の上からウレタン塗装を施し、つやのないマットな仕上がりとした。
平成27年10月から伊勢丹新宿店で2週間の先行発売を行い、その後、銀座三越、コレド室町、湘南T-SITE、阪急うめだ本店、AKOMEYATOKYO銀座店などで販売し、着々と売り上げを伸ばしている。
販促活動にはISICOの活性化ファンドの助成金を活用しており、パンフレットやカタログ、ホームページといった情報発信ツールを制作したほか、今後は製造工程などを撮影したプロモーション映像の制作も予定する。
今年2月には、ドイツ・フランクフルトで開かれる世界最大級の国際消費財見本市「アンビエンテ」に、スープやコーヒー、サラダを入れるカフェオレボウルとして出品し、海外への販路拡大にも取り組んでいる。
同社がデザイナーを活用した商品開発に取り組み始めたのは12年前にさかのぼる。そのきっかけについて我戸正幸社長は次のように話す。
「当時、銘々皿や菓子鉢、丸盆、茶托(ちゃたく)といった昔からの主力商品がさっぱり売れなくなってしまいました。このままでは経営が立ち行かないと思い、東京で最先端のインテリアショップなどをリサーチしたところ、現代の生活空間にマッチし、デザイン性に優れた商品が売れていることが分かったのです。そこで、デザイナーを活用した商品開発に乗り出しました」。
その後、我戸社長は一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会が手がける伝統工芸事業者とデザイナーのマッチング事業に参加。デザイナーと連携した商品開発を具体化させていった。同時に、「インテリア ライフスタイル TOKYO」、「東京インターナショナル ギフト・ショー」などの展示会を糸口に、六本木、表参道、青山、目黒、代官山、自由が丘など、感度の高い消費者が集まる地域を中心にインテリアショップ等の旗艦店に販路を開拓した。
また、「いくらデザインに力を入れても、自己満足では決して認めてもらえない」(我戸社長)と、さまざまなデザイン賞にも応募。山中漆器特有の加飾挽びき(※1)で「千筋(せんすじ)」と呼ばれる細い溝を表面に施した茶筒「KARMI(かるみ)」シリーズは、グッドデザイン・ものづくりデザイン賞(中小企業庁長官賞)や国際的に権威のあるドイツ連邦デザイン賞銀賞などに輝いた。
山中漆器の高い技術と洗練されたデザインが評価されると売れ行きも上向き、フィアットやディオール、テオドー、フランクミュラーなど、国内外の有名ブランドからOEMの依頼が舞い込むようになった。
実績が積み重なると、漆器をデザインさせてほしいという売り込みも増え、現在、同社が手を組んだデザイナーは15人を数える。
ただし、デザイナーに丸投げすれば、良い商品ができるわけではない。我戸社長は「市場性をしっかりと見極めた上で商品開発しなければ、どんなにデザインがよくてもうまくいかない」と話し、誰に、どんな商品を、いくらで売るかというコンセプトを明確にした上で、デザイナーに発注をかけるという。
デザイナーの発想を具現化していくうちに、新たな問題点も浮かび上がってきた。
例えば、デザイナーが提示する形状は従来、産地で作られる一般的な漆器の寸法とは大きく異なるため、木地の製材段階からオーダーメイドしなければならず、生産効率が悪く、割高になってしまった。その上、サクラやミズメ、トチなど、近年品薄で価格が高騰している材料をデザイナーから指定されることも多く、利益を圧迫した。
また、山中漆器の技術をアピールしようと加飾挽きや透けるほどに薄く削る薄挽きをふんだんに用いたため、ベテランの職人に仕事が片寄ってしまった。腕のいい職人は代わりがきかず、職人が他の仕事などで作業できなければ欠品を余儀なくされた。
こうした問題点を克服しようと企画されたのがTSUMUGIシリーズである。産地では汁椀用にあらかじめ荒挽き(※2)を施した汎用の材料が数多く流通しており、同シリーズの10種類の形状はどれもそれを使って作ることが可能だ。材料には供給量が豊富で、価格も安定しているケヤキを使っている。
作るために必要なのは、職人にとって必須のろくろ技術ばかりなので、アルバイトしながら生計を立てることもあるという若手職人など、より多くの職人に仕事を発注し、後継者を育成することにもつながると期待している。
TSUMUGIシリーズの売れ行きに好感触を得た我戸社長は「デザインの優れた商品が売れるといっても、決して奇をてらった商品が求められているわけでなく、伝統の本質を踏まえつつ磨きをかけることが重要と再認識した」と話し、今後は茶托、銘々皿など、昔ながらの商品群もデザインし直して復活させたいと構想を練っている。
(※1) 木地をろくろにかけ、刃物を当てながら回転させることで加飾する技法。
(※2) 作りたい器の大きさに合わせて原木を裁断した後、ろくろ挽きで大まかに成形したもの。
企業名 | 株式会社 我戸幹男商店 |
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創業・設立 | 創業 明治41年 |
事業内容 | 山中漆器の製造、販売 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.86より抜粋 |
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掲載号 | vol.86 |