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築150年を超える町家で大正10年から料亭「壽屋(ことぶきや)」を営む金沢寿屋。北陸新幹線開業を契機に、料亭に続く経営の柱を作ろうと自社でプロデュースしたオリジナル商品の販売事業に乗り出した。その第一弾が平成26年2月に発売した「胡麻煉羹(ごまれんかん)」である。いわゆるごま豆腐なのだが、従来の商品とは一線を画す味わいと金沢らしさを表現したパッケージで、飛躍的に売り上げを伸ばしている。
胡麻煉羹は、香ばしい香りや豊かな風味を持つ白ごまと、宝達志水町で今も昔ながらの製法で作られ、幕末には加賀藩にも献納された宝達葛(くず)をたっぷりと使ったごま豆腐である。丹念に時間をかけて練り上げることで、ごま本来の風味が際立ち、もっちりとした食感、とろけるような舌触りを楽しめる逸品だ。
パッケージは加賀友禅、加賀水引細工、加賀毛針、金箔、兼六園、金沢城のなまこ塀というように、金沢の伝統工芸や名所をモチーフにした6種類をそろえ、いずれもモダンで高級感のあるデザインとなっている。
壽屋の店頭や自社のオンラインショップ、ホテル日航金沢で販売するほか、昨年からはISICOが香林坊大和地下1階で常設する「石川のこだわりショップ かがやき屋本店」や、金沢百番街でも販売をスタート。旅行客が金沢らしいおみやげとして購入するほか、結婚式や法事の引き出物、中元や歳暮の品として人気が高く、かがやき屋で取り扱う300アイテムの中でも上位の売り上げをキープしている。また、手土産を選ぶ機会が多い、企業の秘書がすすめる商品を集めた通販サイトでも人気を博している。
発売から約2年、売り上げは右肩上がりで、平成26年から27年にかけては3倍以上に伸びた。山縣秀行社長は「リピーターも増えてきた。まだまだ伸び代は大きい」と意気込み、販路拡大に向け、東京都内の百貨店等と商談を進めている。
「経営基盤の強化に向け、料亭とは別の柱を作りたかった」。そう話す山縣社長が、北陸新幹線の開業に間に合わせようとオリジナル商品の開発に取り組み始めたのは5年前のことだ。壽屋のルーツが精進料理店であることを踏まえ、商品の第1弾にはごま豆腐を選んだ。
開発にあたっては、まず日本各地から300種類以上のごま豆腐を取り寄せ、研究した。「品質の良いごまや葛は高価です。既存のごま豆腐はコストを下げるため、それらの含有量を減らしていることから、ごまの風味が薄く、別添えした味噌やたれで味を補っているものばかりでした。それなら、ごま本来の香りや味を存分に感じてもらえる商品を作れば、独自性につながり、勝機があると考えました」(山縣社長)。
レシピは山縣社長自身が考案。製造に関しては自前の設備では大量生産できないため、理想の味を実現してくれるパートナー企業を探した。理想の商品を作るために必要な条件は「品質に優れたごまを仕入れるルートがあること」「ごまの香りを引き出す焙煎やペースト加工ができる技術があること」「とろけるような舌触りになるよう練り上げられること」といったもので、北陸3県や九州の食品メーカーを訪ね歩き、何度も試作を繰り返したが、満足いく味に仕上がらず、商品化は困難を極めた。そして、3年をかけてようやく、兵庫県内で手作りと遜色ない理想の味を実現できる食品メーカーと知り合うことができ、商品化にこぎつけた。
同時に、商品の良さが伝わらなければ消費者の手は伸びないとの考えから、パッケージ開発にも注力。大阪のデザイン会社に依頼し、1年かけてモダンで金沢らしさを取り入れたパッケージを完成させた。
ネーミングについては、従来のごま豆腐とは一線を画す味わいをアピールしたいとの思いから、胡麻煉羹と名付けた。
販売は、まず壽屋の店頭からスタートし、ほどなくオンラインショップも立ち上げた。
また、石川ブランド認定製品に選ばれたことをきっかけに販路拡大策について、ISICOに協力を仰いだ。ただ、品質のいいごまや葛を厳選し、ふんだんに使った結果、1個500円と既存のごま豆腐に比べて割高になったことから、まずはこだわりを理解してもらえる消費者にアピールし、販売したいと考えた。
このため、ISICOでは家庭画報のバイヤーと金沢寿屋を仲介。家庭画報のバイヤーは「こんなごま豆腐は初めて食べた。感動した」と採用を即決。商品は平成26、27年の中元、歳暮用カタログに掲載され、多くの注文が舞い込んだ。
かがやき屋本店や金沢百番街でのばら売りもISICOのアドバイスを受けた取り組みだ。当初、山縣社長はいくつかのパッケージを組み合わせることで、より金沢らしさが表現できると考え、3個入り、6個入り、9個入りの箱売りに限定していた。しかし、単体でも完成度の高いパッケージであり、購入者も好きなデザインを選べることから、単品販売も行い、好評を博している。
山縣社長は、さらなる新商品の開発に意欲的だ。現在、「趣向を凝らした企画商品や季節限定品を展開したい」とアイデアを練っており、まずは国産ごまと最高級の吉野葛を使ったスーパープレミアム版の胡麻煉羹を今年中に発売する計画だ。
また、販路開拓にも積極的に取り組もうとしている。国内にとどまらず、海外での販売も視野に入れ、アジアや中東での展示会への出展を行う予定だ。経済産業省が実施している、世界に誇るべき日本の優れた地方産品を選定し、海外に情報発信するプロジェクト「The Wonder 500」に選ばれたことも海外展開の後押しとなりそうだ。
さらに、山縣社長は、今後について「ごまや食品にこだわらずオリジナル商品をプロデュースしていきたい」と話し、経営の新たな柱づくりに向け、並々ならぬ情熱を燃やしている。
企業名 | 株式会社 金沢寿屋 (加賀精進・会席料理 壽屋) |
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創業・設立 | 創業 大正10年 |
事業内容 | 料亭の経営 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.86より抜粋 |
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掲載号 | vol.86 |