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いしかわ次世代産業創造ファンド(次世代ファンド)や国のプロジェクトを活用したり、知的財産権に関する取り組みなどを行い、成果を上げた企業を紹介します。
オートバイ関連商品を企画、開発するウインズジャパンが、新たなヒット商品として期待をかけるのがヘルメット用の曇り止めシート「FOGWIN(フォグウィン)」である。既存の製品とは異なる特殊な素材や、独自の取り付け方法を採用し、性能を大きく向上させた自信作だ。また、知的財産保護にも力を入れ、FOGWINに関する特許の国際出願や商標の国際登録といった取り組みにより、日本国内はもちろん、ヨーロッパを中心に海外へと販路を拡大する準備を進めている。
FOGWINは、ヘルメットのシールドの内側に貼り付けて使う曇り止めシートである。寒い時期や湿度の高い時期、雨天時などにシールドの曇りを防ぎ、良好な視界を確保する。
シートはゲル状の特殊粘着剤でシールドに貼り付ける。粘着剤の厚みの分だけ、シールドとシートの間に空気層が生まれ、これが断熱層の役割を果たして外側と内側の温度差を減らし、曇りを抑える。
さらに、シートには親水性のある特殊素材を採用。ヘルメット内に発生する水分を吸い取って曇らないようにしている。
曇り止めシートには、ヨーロッパメーカーが作る先行品がある。しかし、このシートは温度や湿度に弱く、伸び縮みするため、使っているうちに変形して外れたり、表面が劣化して視界が悪くなったりする欠点があった。FOGWINでは特殊素材を使うことで、こうした欠点を解消した。
平成26年から自社製のヘルメットに付属させるかたちで販売を開始。平成27年春に、シート単体での販売をスタートさせた。曇り止めシートに対する認知度が低い上、温かい季節には必要ないため出足こそ鈍かったが、寒さが増すにつれて売れるようになってきた。
ウインズジャパンは、オートバイレーサーでもある片岡匡史社長がユーザー目線を取り入れた商品を開発しようと設立した会社だ。
FOGWINも、片岡社長が雨天のレースに出場した際、シールドが曇ってしまったことが発想の原点となった。「バイクのヘルメットは気密性が高い分、寒い季節や湿度が高い環境では曇りやすくなります。シールドを少し開けて外気を取り入れれば曇りは取れますが、冬は寒いですし、雨の日には顔に水滴が付き、それが体温で蒸発してさらに曇ってしまうんです」(片岡社長)。
曇り止めには液体タイプやスプレータイプもあるが、経験上、効果が長続きしないことを実感していた片岡社長は、日本の優れた技術を活用すれば、先行する曇り止めシートの欠点を克服できるのではと考え、開発を始めた。
シートや接着剤については、さまざまなメーカーから素材を取り寄せ、テストを重ねた。その結果、オリジナルの防曇加工を施したシートを開発してくれた大手光学機器メーカーのものを採用。接着剤は曲面にも密着し、何度も貼り直しできるものを手に入れることができた。
また、日本モーターボート競走会の協力を得て、ライダー同様、曇りに悩まされているボートレーサーに使ってもらうための開発にも取り組んだ。真冬でも水しぶきを浴びながらレースをしたり、濡れたヘルメットを高温の乾燥室に入れて乾かしたりと、使用環境はオートバイよりも過酷だ。その上、グラム単位の軽量化を求められる。こうしたハードルを乗り越えていくうち、シートはより薄くて軽いものに、接着剤もより気密性の高いものにといった具合に開発が加速していった。
改良に改良を重ねた接着剤や取り付け方法に関しては、平成26年初めに特許を出願。平成27年春には国際出願に切り替えた。シートの素材についても、平成27年春にメーカーと共同で特許を出願し、来春には国際出願に切り替える。さらに、平成28年には商標を国際登録する予定だ。
出願、登録にあたってはISICOの専門家派遣制度を利用し、弁理士からアドバイスを得た。同時に、ISICOの中小企業知的財産活動支援事業費補助金に採択され、助成を受けた。
「うちは大手企業と違って知的財産部門があるわけではありません。専門知識がなく、何から手を付けてよいかも分かりませんでしたから、専門家のサポートが力になりました。資金力の乏しい中小企業でも、より多くの国に出願できるようになりますから、補助金も大きな助けになりました」(片岡社長)。
このように同社が国際的な知的財産保護に力を入れるのは、FOGWINを市場規模の大きいヨーロッパに売り込みたいとの思いからだ。
平成27年11月にはイタリアで開かれた世界最大のモーターサイクル展示会ミラノショーに足を運び、ヘルメットメーカーに営業をかけた。先行品よりも優れたブランドイメージを確立するため、現在、世界トップ3のメーカー各社と商談を進めている。
ところで、同社にとって特許を出願したり、商標を登録したりするのは初めてのことで、その背景には苦い経験がある。
同社のヒット商品の一つに、スマートフォンや携帯音楽プレーヤーとつないで使うヘルメット用スピーカー「サウンドテック」がある。発売後、すぐに人気商品となったが、2年ほどするとコピー商品が出回った。中には仕組みはもちろん、パッケージからコードの長さに至るまで何もかもそっくりのものもあった。
このときは既にブランドイメージが確立されていたことに加え、音質を高めた上位モデルを投入し、差別化を図っていたため、極端に影響することはなかったが、それでも下位モデルでは市場の奪い合いを余儀なくされた。
今回はこうした経験を基に、海外展開も視野に、いち早く知的財産保護に取り組んだというわけだ。
「特許を取得すれば防御になる上、独自技術であることが明確になり、取引先にも安心感を与えられます」。片岡社長はそう笑顔を見せ、今後は曇り止めと言えば、すぐにFOGWINをイメージしてもらえるようにブランド力向上と販路開拓を進めていく考えだ。
企業名 | 株式会社 ウインズジャパン |
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創業・設立 | 設立 平成21年2月 |
事業内容 | バイク関連グッズの企画・開発・販売、コンチネンタルモーターサイクルタイヤの販売 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.85より抜粋 |
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掲載号 | vol.85 |