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多くの中小企業にとって重要な経営課題と言えるのが販路開拓であり、その解決に向け、戦力のひとつとなるのがインターネットの活用だ。パソコン、スマートフォン、タブレット端末の利用時間が増え、電子商取引の市場規模も拡大を続ける現状は、商圏の拡大や新規顧客獲得を目指す地方の企業にとっても大きなビジネスチャンスと言える。そこで、今回の特集では、インターネットをしっかりと活用し、事業を取り巻く環境の変化を跳ね返して成長を続けている2社の取り組みを紹介する。
写真業界はデジタルカメラの普及、パソコンや家庭用プリンターの高性能化、スマートフォンの登場などを背景に、ここ15年ほどで経営環境が激しく変化を遂げている。そんな中、時流に合わせた新サービスの創出で商機拡大に取り組んでいるのがホリ写真館だ。
昭和33年に創業したホリ写真館は、以前はどこの町でも見られた写真館と同じように、フィルムの現像・プリントや地域の人々の記念写真の撮影を手がけてきた。しかし、デジカメの性能が上がり、出荷台数がフィルムカメラに迫る平成12年以降、それまで売り上げの80%を占めていた現像・プリント事業は一気に需要が低迷した。
こうした変化に対応し、他社に先駆けてインターネットを活用したビジネスモデルで活路を開いたのが堀光治(みつはる)社長である。堀社長はISICOのネット活用セミナーで情報を収集したほか、ホームページドクターのアドバイスを参考に、デジカメの画像データをネットやメールで受け取り、プリントしたり、ポストカードにしたりするサービスを平成12年に構築。地元にとどまらず全国から注文を獲得することに成功し、平成17、18年には経済産業省の「IT経営百選」にも選ばれた。
平成17年まではこうしたビジネスモデルで順調に売り上げを伸ばしたが、5年も経つと状況は一変した。
「ネットビジネスは模倣されやすく、ライバルがどんどん参入してきました。競合が増えると、価格競争が激しくなり、収益性が悪化しました。そこで、他社との差別化を目指し、撮影部門の強化に乗り出したのです」(堀社長)
ネットを活用したデジカメプリントサービスが他社に追随された反省を生かし、まねされにくく、誰が見ても一目で違いが分かる撮影メニューが必要と考え、堀社長が主力に据えたのが「ロケーション撮影」による家族の記念写真だった。写真館での撮影と言えば、スタジオで盛装して撮るのが一般的だが、ロケーション撮影では公園や海岸、田園といった野外に出て、普段着で撮影する。リラックスした気持ちで撮影に臨めるため、普段の様子を自然に写すことができるほか、季節や時間帯によって違う雰囲気に仕上がる点が魅力だ。
これに合わせ、スタジオも改修した。自然光を取り入れられるようにしたほか、構図のアクセントとなるドアや窓、ソファなどを設置。平成17年に「フォトアトリエ アディ」として再出発した。「当時は子ども専門の写真館が台頭し始めた時期でした。でも、こうした写真館は、衣装や背景、構図は代わり映えしません。ロケーション撮影なら、オリジナリティの高い写真を撮影できます」(堀社長)
そのため堀社長は、撮影前にあらかじめ家族構成やそれぞれの年齢、趣味などを詳しく聞いた上で、最適のロケーションを提案する。例えば、野球部員とマネージャーだった二人の結婚写真であれば、野球場のスコアボードが見えるような場所で撮影するといった具合だ。
手間が掛かることから、まねされにくいとはいえ、ロケーション撮影はなじみが薄い。そのため、堀社長はロケーション撮影のPRやスタジオのブランディングに力を入れている。
PRの一環として取り組むのは毎年7月の第4日曜に行う、親子を対象とした無料撮影会だ。
「親子20組を野外で撮影し、写真をプレゼントしています。親子の写真を撮り続けているアメリカ出身の写真家がその日を“親子の日”と提案したことに賛同して始めました。家族の絆を深めるきっかけ作りという、社会貢献の側面もあるので、多くのメディアが取り上げてくれるのがうれしいですね」(堀社長)
この撮影会は、新しい記念写真の提案にもつながっている。例えば、今年、堀社長がチャレンジしたのが夜の市街地で撮影する「ナイトロケ」だ。昼間とはひと味違った雰囲気の写真を提案することで、新たな顧客の獲得につなげるというわけだ。
また、全国規模の写真コンテストに積極的に参加し、数々の賞を受けるほか、東京や大阪、名古屋で個展を開催。こうした取り組みが、写真館のブランド価値や顧客満足度の向上につながっている。
ニッチなサービスだけに、より多くのニーズを取り込むには、商圏を広げることも欠かせない。情報発信の柱となるのはITである。昨年にはホームページを刷新。ランディングページ(※1)を新たに設置し、このページだけでアディのサービスが理解できるよう工夫した。その結果、能美市外からの利用者が大半を占めるようになった。中には首都圏やヨーロッパから来る人もいる。今では撮影の仕事が売り上げの90%以上を占めるまでになり、収益の上がらないネットプリント事業は昨年で廃止した。
堀社長は「社会状況が変わる中、今までと同じことをやっていても成長はありません」と話し、小さな企業が地方で生き残っていくために、今後も新たなサービスメニューの開発やIT活用に絶え間なく取り組む考えだ。
(※1)ユーザーが広告や検索によってサイトに訪れて、最初に見るページ
企業名 | 有限会社 ホリ写真館 |
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創業・設立 | 創業 昭和33年3月 |
事業内容 | 写真業 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.83より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.83 |