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ISICOでは、企業の成長をサポートするためさまざまな支援制度を用意しています。
制度を利用して事業の拡大に成功した企業の取り組みを紹介します。
高木糀商店は材料を厳選し、伝統的な道具と製法を守り、本物にこだわった糀(こうじ)や味噌を手造りしている。しかし一方で、高木竜(りょう)社長は伝統にあぐらをかいてはいけないと感じていたことから、ISICOの専門家派遣制度を利用し、中小企業診断士と、過去の経緯、現在の課題、将来の目標などについてヒアリングや対話を重ね、二人三脚で事業計画を策定した。
その中で、生産面のてこ入れが必要であることが分かり、昨年11月、中小企業庁の中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業を活用し、185年前の創業時から使い続けてきた石室(いしむろ)の内部をステンレス張りにした。
店内の地下に設けられた石室は、種糀をまぶした米を高温・高湿な環境で保管し、糀菌を培養するための場所であり、ステンレス化によって、従来よりも雑菌の少ない状態で糀造りができるようになった。
改修のきっかけは、自家製かぶら寿しを卸している東京の百貨店から、製造現場の衛生面について改善を求められたことだ。石室は表面がでこぼこして雑菌が付きやすい。もちろん、定期的に清掃する上、商品が直接石に触れることもないため、品質に問題が生じたことはないが、百貨店が求める厳しい衛生基準をクリアするには十分とは言えなかった。
そこで、蓄熱性に優れた石室の長所を生かしながら、汚れや雑菌が付きにくく手入れのしやすいステンレスの良さを組み合わせたのだ。高木社長は「昔ながらの製造環境と現代の食品流通に求められる衛生環境を両立させることができた」と喜びの表情を見せる。
改修された石室には、パネルヒーターと加湿器が備えられ、温度や湿度を数値制御できるようになっている。便利なシステムだが、高木社長は「導入当初は戸惑いもあった」と話す。というのも、従来の石室では火鉢やストーブなどで室温を上げ、それらにやかんをかけて湿度を調節しており、その判断基準は主に肌で感じる温度や湿度であった。システム導入に合わせ、そういった感覚を数値に置き換えることが難しく、数値を指定しても思うようにいかないこともあったという。今ではすっかり慣れた高木社長だが、「数値だけに頼るのではなく、肌で感じる感覚を失わないよう気をつけたい」と話している。
石室の改修と合わせ、出来上がった糀を保管する冷蔵設備もより大容量のものに新調した。また、設置場所を従来の店外から石室の近くに変更した。これによって、糀を石室から冷蔵設備に効率よく搬入できるようになったほか、糀が外気に触れる時間を最小限に抑え、品質の劣化を防ぐことが可能になった。冷蔵設備が大型化したことで、かぶら寿しの仕込みに使えるスペースも増え、今年の生産量は前年の2,000個から倍増する計画だ。
「発酵食品は日本の食文化の原点であり、先人の知恵と技の結晶。次世代に味や作り方を正しく伝えることが使命」と話す高木社長。糀や味噌、かぶら寿しといった商品のほか、7年前から開催している味噌を手造りする会も好評だ。現在は来年の氷室の日(7月1日)に合わせ、糀を使った自家製酒まんじゅうの商品開発に取り組むなど、精力的な取り組みで、のれんを守っている。
企業名 | 株式会社 高木糀商店 |
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創業・設立 | 創業 天保年間(1830~1843年) |
事業内容 | 糀、味噌などの製造、販売 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.82より抜粋 |
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掲載号 | vol.82 |