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「いしかわ産業化資源活用推進ファンド(活性化ファンド)」の採択企業、各種展示会の出展企業の商品等にスポットを当てます。
輪島塗や輪島産の珍味などを販売するネットショップを運営するほか、輪島市内で飲食店を経営するハルテリベイマ。能登半島地震を契機に地元へとUターンしてきた安原信治代表は、プロデューサーとして輪島が誇る地域資源の発信や魅力アップに精力を注いでいる。昨年12月には、オリジナル商品として輪島塗のソムリエナイフを開発し、日本のみならず世界に販路を広げようと、準備を進めている。
ソムリエナイフはワインボトルの口を覆うキャップシールをはがしたり、コルク栓を抜いたりするために使われ、ナイフやコルク抜きのスクリュー部分が折りたためるようになっている。
ハルテリベイマが開発したのは、フランスの洋食器・刃物メーカーSCIP社が作るソムリエナイフのトップブランド「シャトー・ラギオール」の木製の柄に、輪島塗職人が塗りや加飾を施したものだ。第一弾として、朱漆に桜、黒漆に蝶、溜漆に昇り龍を描いた3種類が完成している。
同社が運営する輪島塗の通販サイト「流派輪島」のほか、シャトー・ラギオールの日本代理店である日本クリエイティブ(株)(東京都)を通じて今春から日本全国で販売される予定だ。
安原代表は海外への販路開拓にも意欲的で、日本クリエイティブを通じて、世界各国にあるシャトー・ラギオールの販売店にも取り扱いを働きかけていく。既に「早く本物を見せてほしい」など、外国の販売店からも問い合わせが寄せられている。
ラインアップを拡充するため、さらに6種類のデザインを商品化する予定で、オーダーメイドの要望にも応じていく。
安原代表は「ワイン愛好家の中には、ソムリエナイフをコレクションしている人もいる。輪島塗の魅力をより多くの人に知ってもらうきっかけになれば」と話し、年間120本の販売を見込んでいる。
開発のきっかけとなったのは、流派輪島でオリジナルの商品を販売したいとの思いだった。平成23年にオープンしたこのネットショップでは、これまで安原代表が目利きし、消費者に自信を持って薦められる輪島塗を扱ってきたが、独自企画の商品を制作したことはなかった。
転機となったのは、2年前に同社が輪島市内で多彩なのどぐろ料理とともにワインを提供する居酒屋「のどぐろ屋」を開店させたことだった。その店を営業する中、ワインを開けようとした安原代表が「漆を施したソムリエナイフは見たことがない」と、ふと思いついたことから商品化を企画した。
開発のベースとして選んだのがシャトー・ラギオールである。このソムリエナイフは、優美なデザインに、プロのソムリエを満足させる機能性と耐久性を兼ね備えた逸品で、世界ソムリエコンクールの優勝者が自身のオリジナルモデルを作成することでも知られる。
安原代表は「輪島塗ほどの価値のあるものとコラボレーションするなら、使用するのは一流のソムリエナイフでなければならない」と考え、自ら日本クリエイティブに足を運んで、コラボを持ちかけた。その熱意が認められ、商品に付けている3年保証がなくてもよければという条件で、制作許可を受けた。
制作は、加波次吉(かばじきち)漆器店(輪島市)に依頼した。
ベースとなるシャトー・ラギオールのソムリエナイフは、金属と木製の柄が組み合わされた商品で、金属と柄の接合部は段差がないように仕上げられている。そのまま漆を塗ったのでは、その分だけ厚みが増し、段差ができてしまう。そのため、漆の厚みを見越して、あらかじめ柄を削っておくなど、美しく仕上がるよう工夫した。柄だけを外すことはできないため、作業には、一層の繊細さが求められた。
輪島塗のオリジナル商品はこれだけにとどまらない。ソムリエナイフとほぼ同時に開発してきたのが輪島塗ギターである。
発端となったのは、安原代表が中学時代に大ファンだったイギリスのギタリスト、ジェフ・ベックさんが金沢で公演するという情報を聞きつけ、ぜひ使ってもらおうと企画したことだった。ベックさんが愛用するギターメーカー、Fender社の日本代理店である(株)神田商会(東京都)から協力を取り付け、具体化した。ギターは昨秋に完成。昨年11月に東京ビッグサイトで開催された楽器フェアでお披露目され、現役のプロミュージシャンからも高く評価された。
今後、ベックさんにプレゼントされるほか、一般向けに30本の限定販売を計画している。
このほか、気多大社(羽咋市)との間では、輪島塗のお守りの開発を進めている。これは2センチ角の木に漆を施し、「気」「縁」といった文字をあしらったもので、小銭入れなどの中に入れて使ってもらう。小銭と擦れても傷が付かないことから、「傷付かずに恋愛が成就する」との意味を込め、縁結びのお守りとして販売する。
安原代表は「輪島塗を若い人にも身に付けてもらえれば」と期待を寄せ、「これからも先人の仕事をリスペクトしながら、自分なりのアプローチでオリジナル商品の企画に取り組んでいきたい」と意欲を燃やしている。
ところで、旧門前町出身の安原代表が、地元へUターンし、起業したのは平成19年3月の能登半島地震に端を発する。当時、大阪で働いていた安原代表は、地震のニュースを聞いて慌てて帰郷。当初、地元に帰ってくる気はなかったが、久しぶりに見たふるさとがすっかり活気を失っている様子に危機感を抱き、Uターンを決意した。社名には「故郷を愛し尊重する」という意味のドイツ語から発想した造語を掲げた。
これまでに、輪島産の珍味や干物を販売するネットショップ「輪食(わしょく)」を皮切りに、流派輪島、のどぐろ屋を立ち上げ、昨年には總持寺祖院の境内でカフェ「持寺珈琲(じじこーひー)」をオープンした。
とはいえ、決して順風満帆だったわけではない。宿泊事業や運転代行事業はうまく行かなかったほか、総持寺通り商店街で開いたイタリア料理店では従業員に売り上げを持ち逃げされ、閉店を余儀なくされた。しかし、経営のピンチを乗り越えたことで、「経営者としては着実にステージが上がった」と安原代表は前向きにとらえている。
「少子高齢化や過疎に悩んでいる町は全国どこにでもある。でも、そんな町でもやっていけるということを証明したい」。そう話す安原代表の表情は闘志に満ちている。
企業名 | 株式会社 ハルテリベイマ |
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創業・設立 | 創業 平成19年4月 |
事業内容 | 輪島の名産品・特産品の販売、飲食店経営 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.81より抜粋 |
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掲載号 | vol.81 |