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大型部品の切削加工を得意とする大徳鉄工は、平成19年から航空機に搭載されるエンジン部品の加工を手がけ、業容を拡大している。
同社が加工するのは、航空機エンジンの大手、(株)IHI(本社・東京)に納めるファンケースと呼ばれる部品だ。外気を吸入し、燃焼部に送り込むためのファンの周りを覆うリング状の部品で、切削の難しいチタンで作られている。直径は1.6メートルと大きく、公差(※)はわずか100分の3ミリに過ぎない。
同社は8年間で、1,130個のファンケースを納品しており、林範隆社長は「不良やクレームは一度もない」と胸を張る。こうした実績が認められ、「昨年10月にはIHIの『品質システム優良適合証』をいただいた」とのこと。これはIHIが示す品質管理要求事項を満たした協力企業に与えられるもので、従業員規模が十数名の企業が取得できるのは極めて珍しいケースだ。
(※)加工時に許容される寸法の誤差
これまで接点のなかった大手メーカーから規模の小さな地方の企業に声がかかったきっかけは、ISICOが毎年発行している「石川県受注企業名簿」にある。表紙が赤いことから通称“ 赤本”と呼ばれるこの名簿には、新規受注に前向きな県内の優秀受注企業約350社の概要や設備が紹介され、全国の発注企業約2,700社に配布されている。これを見たIHIの調達課長が電話をかけてきたのだ。
聞けば、関東から九州に至るまで、15社ほどに試作を依頼したものの、満足のいく加工ができず、困っているとの話だった。大徳鉄工ではちょうどファンケースの加工に適した立旋盤の導入を予定していたことから、試作を受諾。その結果、調達課長が望んでいた品質を実現し、受注にこぎ着けた。
では、多くの企業が失敗した加工を成功させた秘密はどこにあるのだろうか。この点について、林社長は「チタンをはじめ、超硬合金を加工するには人間の持つ五感、感性がものを言う」と話す。
一例を挙げて説明しよう。硬い素材を切削した場合、鉄などの素材を加工するのに比べ、刃物は早く切れ味が悪くなる。そのまま加工を続ければ、さらに刃物は劣化し、品質不良につながってしまう。品質を保つには、削っているときの微妙な音の変化を聞き分けて、刃物を新品に取り替える必要がある。このように五感・感性を駆使しながら加工することで、優れた品質が実現されるというわけだ。
また、林社長が「どんなに難しいものでも、頭を使えば必ず加工できる。絶対にあきらめない」と話すとおり、品質向上に向け、治具などに、粘り強く創意工夫を重ねる点も理由のひとつと言えるだろう。
航空機関連の仕事が会社の柱に育ってくる中、林社長がひしひしと感じているのが社会的な使命感やプレッシャーである。ちょっとした不良も大事故につながる可能性があるため、いくら品質に万全を期しているとはいえ、「どこかで航空機が事故を起こしたと聞けば肝を冷やす」(林社長)という。
また、航空機部品に使われる材料はオーダーメイドされた特殊合金であり、市中でたやすく手に入る代物ではない。もしも、大徳鉄工が加工を失敗すれば、新たに材料を入手するには長期間待たねばならず、それだけ後工程にしわ寄せがいくことになるのだ。
そうならないよう、同社では先ほど述べたような工夫のほか、人はミスするものという前提に立って複数の社員によるチェック体制を築くなどして、失敗を防いでいる。
林社長は今後について「航空機部品の売り上げを現在の10%から30%にまで引き上げたい」と述べ、ISICOが主催した「受注開拓懇談会」で得た県外大手企業との人脈を生かし、ディスクと呼ばれる部品の受注を目指している。
ディスクとはエンジンでも高温の燃焼ガスを噴出させる場所に取り付けられる部品であり、インコネルという特殊な合金が使われる。加工はさらに難しくなるが、林社長は「難度が上がるほど、加工には感性が要求される。それだけに当社に十分勝機がある」と自信を見せている。
企業名 | 株式会社 大徳鉄工 |
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創業・設立 | 創業 昭和45年8月 |
事業内容 | 重電機器部品、航空機部品、産業機械部品等の切削加工 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.81より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.81 |