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ISICOでは平成19年に「革新的ベンチャービジネスプランコンテストいしかわ」を初開催して以降、最優秀起業家賞と優秀起業家賞に合わせて35人を選び、継続的な支援を行ってきた。ところで、読者の皆さんにとっては、厳しい審査を勝ち抜いた受賞者たちが果たしてどのように成長したのか、気になるところだろう。そこで今回は記念すべき第1回のコンテストで優秀起業家賞に選ばれたアイサスの百成公鋭社長のその後についてレポートする。
百成社長が提案したのは、「information bridge(インフォメーション・ブリッジ)」と名付けた土木・建設工事向けの情報共有システムである。
これは土木・建設工事の施工中に発生する書類や図面、写真をサーバーに登録し、受注企業と工事の発注者の間で情報を共有するためのシステムだ。
従来は紙の書類で行っていたやり取りがインターネット上で可能になるため、企業にとっては何度も発注者の元へ足を運ぶ手間が省け、事務作業やコストの軽減、納期の短縮につながる。工事完了後に書類や図面、写真をデジタルデータで納める電子納品にも対応可能だ。
また、公共工事では現在、入札や納品などの事務手続きを電子化するCALS/ECの導入が進められており、こうした需要にも対応する。
システムは、顧客がインターネットを通じて利用するASP形式によって提供し、バージョンアップやサーバーの保守などはアイサスが担当する。そのため利用者は初期投資が不要で、低額の利用料でシステムの導入が可能になる。
コンテスト出場時は会社設立2年目で、年間利用数は約200件にとどまっていた。現在では、石川県が発注する工事の90%以上、国土交通省北陸地方整備局が発注する工事の50~60%で使われ、年間2千数百件の利用実績を誇る。
これ以外にも、金沢市や小松市、岡山県や長野県のほか、中部地方整備局や近畿地方整備局などが発注する工事でも利用が進んでいる。
利用数が伸びるともに、システム開発費の回収も進み、平成24年には単年度黒字に転換、平成25年には過去の累積損失を一掃した。今期も黒字決算を見込んでいる。
今でこそ北陸でトップシェアを誇るまでに成長したとはいえ、当初は後発企業の一つに過ぎなかった。創業間もない頃には経営コンサルタントや大学教授に、「大手企業が既に進出している分野で売れるわけがない」と言われたこともあった。
しかし、百成社長は成長の余地が残されていると確信していた。というのも既存のシステムは使い勝手が悪かったからだ。百成社長は建設会社の出身で、システムには利用者が感じていた不便を解消できるような工夫を随所に盛り込んでいた。「この点を高く評価してくれたのが、ISICOのコンテストでした。もし、この時くじけていたら今はなかった」と百成社長は当時を振り返る。
コンテストで優秀起業家賞を獲得したことによって、外部から高い評価が得られるようになったほか、社員の自信にもつながった。
企業経営の経験がなかった百成社長にとって、ISICOに相談したことで、中小企業診断士などの専門家から、事業計画書の作成をはじめ、経営の基礎について指導を受けられたことは大きなメリットとなった。こうした指導によって、創業当時の苦境を乗り切り、確実に成長することができた。
ユーザーにとって使い勝手に優れた点が認められ、「information bridge」は国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)に、同様のシステムとしては唯一、登録されている。
今年10月には、災害時の道路や河川の状況や資機材の情報を、自治体や建設・土木企業、地域住民が共有できる「災害情報管理機能」の提供を開始。どの自治体も関心が高く、百成社長は今後の拡販に手応えを感じている。
平成28年には既に同社のシステムが採用されている岡山県に支店を開設する予定で、百成社長はここを足がかりに中国、四国、九州へ販路を広げる青写真を描いている。
企業名 | 株式会社 アイサス |
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創業・設立 | 設立 平成17年10月 |
事業内容 | ASPサービス事業、CALS/EC支援事業 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.79より抜粋 |
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掲載号 | vol.79 |