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これまで海外戦略の中核となってきた中国に続く新たな投資先として、東南アジアに注目が集まっている。タイやベトナム、インドネシアなど10ヵ国が加盟するASEANは経済成長が続いている上、総人口が6億人を超え、比較的リスクの少ない生産拠点としてはもちろん、消費市場としても潜在的な魅力を秘めている。そこで、今回の特集では東南アジアにビジネスチャンスを見いだそうと積極的に取り組む県内の2社を取材した。
一方、既に現地に拠点を設けて事業を始めているのが、産業用ロボットシステムなどを開発するメカトロ・アソシエーツだ。同社では昨年8月、タイのバンコクに現地法人を設立した。現在、日本人1名、タイ人6名の社員が勤務。加工物の位置決め、移動に使う主要部品や自動化のノウハウを日本から供給し、それ以外の部品の調達や組み立て、塗装を現地で行うビジネスモデルを展開している。
同社がタイ進出を検討し始めたのは6年前にさかのぼる。県鉄工機電協会がタイで開催した商談会に参加し、現地企業の高いニーズを実感したことがきっかけだ。その後、何度かタイ企業と商談の場を持ったが、現地に拠点がないと話が進まないため、進出の準備に取り掛かった。
まず平成23年10月にバンコクに開設したのが駐在員事務所である。駐在員にはそれまで商談で通訳を務めていた女性を採用し、ビジネス学校に通わせて日本の企業文化やマナーを教育した。
同時に本社では、金沢大学からインターンシップで受け入れたタイ人留学生を採用し、日本で働きながら仕事を覚えてもらった。現在、バンコクの現地法人ではこのタイ人社員がマネージャーを務め、日本から出向するゼネラルマネージャーとともに会社を切り盛りしている。
現地では、タイ資本が過半数の株式を保有する合弁企業を設立した。信頼できるパートナー探しには苦労したが、ISICOが紹介したタイのコンサルティング企業から協力を得た。タイでは、外資100%の企業の活動にさまざまな制限がある。BOI( タイ投資委員会) の認可を受ければ、税制上の優遇措置もあるが、経理が煩雑になるなどの理由から見送った。
会社の運営に当たって、酒井良明社長が大切にするのが「その国になじむこと」だ。日系とはいえ、あくまでもタイに根差した企業として、同社ではタイ人社員が営業活動の最前線に立つ。こうした取り組みは珍しく、現地企業からも好感を持って迎えられるという。
また、酒井社長は月に1 度、必ずタイに足を運び、ミーティングや食事会を通して意思疎通を図る。書類を顔の近くに差し出しただけでパワハラと捉えられるなど、文化の違いを感じることも少なくないが、「日本流を押し付けてもうまくいかない」と要望には臨機応変に対応する。とはいえ、わがままな要望に応じたり、特定の社員だけをひいきするような対応は厳禁だ。
「日本人の責任者を置く場合は、その人選も大事」と酒井社長は話す。タイは夜遊びする場所にこと欠かないが、現地の社員は上司の私生活、能力を見透かして態度を変える。私生活が乱れていれば、言うことを聞かなくなる場合もあり、それだけに、日本人社員にはまじめで協調性に優れたタイプが望ましいというわけだ。
受注はまだ確定していないが、現在、自動車部品メーカーなどと前向きな商談が進んでおり、酒井社長は「一度に100台の溶接ロボットなど、規模の大きな取引を見込める」と好感触を口にする。
好調が続く新興国経済にどう関わり、業容拡大に結びつけるのか。これは今後の日本経済が抱えるテーマの一つである。今回紹介した2社をはじめ、東南アジアを目指す県内企業の健闘に期待が高まる。
企業名 | メカトロ・アソシエーツ 株式会社 |
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創業・設立 | 設立 平成18年10月 |
事業内容 | 各種ロボットシステムの開発、治具の設計・製作 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.71より抜粋 |
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掲載号 | vol.71 |