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石川県が創設した「いしかわ産業化資源活用推進ファンド(活性化ファンド)」の認定企業にスポットを当て、地域の資源を生かした商品開発について紹介する。
宗玄酒造は今年6月、トンネル内で貯蔵した日本酒の販売をスタートする。このトンネルは平成17年に廃線となった、のと鉄道能登線で使われていた宗玄トンネルで、同社の裏手に位置する。同社では全長130m、幅4m、高さ5mのトンネルのうち、中央部の80mを「隧道蔵(ずいどうぐら)」と名付けた貯蔵庫として整備し、外気や日光の影響を受けないよう二重の壁を設けて両端をふさいだ。同社にとっては245年前の創業時に建てられた「明和蔵」、平成10年に完成した「平成蔵」に続き、3つ目の蔵となる。
隧道蔵の中は年間を通して日本酒の熟成に適した14~15℃に保たれ、品質を劣化させる光が差し込むこともない。同社では今年3月からビン詰めした日本酒の一部をここで保管し、熟成させている。トンネル内は湿度が高いため、カビが付いたり、入り込んだりするのを防ぐため、熟成時にはビンをPET樹脂でラッピングしておく。
日本酒のトンネル貯蔵は北陸で初めての試みとなるが、同社の徳力暁(とくりきさとる)社長は「日本酒の醸造で大切なことの一つは温度管理であり、1年を通して温度が一定の隧道蔵は日本酒の仕上げに理想的。大吟醸酒や吟醸酒、純米酒のようないい造りの日本酒は、熟成させることで角がとれてまろやかな味になる」と笑みを見せる。
販売開始を前に、「いしかわ産業化資源活用推進ファンド(活性化ファンド)」の補助事業を活用して、トンネル貯蔵酒の専用ラベルやPR用のパンフレットを作成するなど準備を進めている。
トンネル貯蔵酒の販促に当たっては、「隧道蔵オーナー倶楽部」を発足させた。これは、宗玄酒造の日本酒6本以上を購入してオーナーになると、それらを自分の名前の入った隧道蔵の専用棚で貯蔵、熟成できるという仕組みだ。会費は日本酒の購入金額と年間1,050円の維持管理費である。
オーナーは予約をすれば、いつでも隧道蔵を見学することが可能で、同社の蔵開きや試飲会などにも参加できる。
宗玄酒造は日本4大杜氏の一つとして知られる能登杜氏発祥の蔵元とも言われており、奥能登はもちろん、全国の左党にもファンが多い。それだけにトンネル貯蔵酒への関心も高く、隧道蔵オーナー倶楽部への入会申し込みも順調な滑り出しを見せている。
新たに始まるトンネル貯蔵酒の販売は、徳力社長が描く奥能登への観光誘客プランの一環でもある。
隧道蔵と並んで目玉となるのは、同社が今年4月に開業させる「奥のとトロッコ鉄道」だ。「のトロ」と愛称を付けたこの鉄道は、隧道蔵から旧のと鉄道恋路駅までの約400mの区間で、蔵の内部を除く約270mをトロッコで走行する。トロッコは電動アシスト付きの足こぎ式となっており、眼下に恋路海岸を一望する景色を楽しみながら運転士気分を味わえる。
こうした取り組みのきっかけとなったのは、旧恋路駅に備えてあるノートだった。ノートには廃線後も駅舎を訪れる観光客らの思い出がつづられており、これを目にした徳力社長の掛け声で全社員が駅舎の清掃や周辺の除草を行ってきたほか、「恋路ゆき」と記された復刻版の切符を販売した。
廃線後、線路は取り払われていたが、同社では新品の枕木や中古のレールを購入して敷設し、4月の開業にこぎ着けた。
このほか、トンネルの内部は音がよく響くため、今年9月には隧道蔵をホールの代わりに使ってコンサートの開催も予定する。徳力社長は「輪島の千枚田から珠洲の塩田村、そして“のトロ”へと、観光客の皆さんに奥能登をぐるっと周遊して楽しんでほしい」と期待を寄せている。
企業名 | 宗玄酒造 株式会社 |
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創業・設立 | 設立 明和5年 |
事業内容 | 日本酒の製造、販売 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.69より抜粋 |
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掲載号 | vol.69 |