本文
馬場社長が畑違いとも言えるブライダル事業へと進出したのは、「金沢の魅力である茶屋文化を末永く守っていきたい」という思いからだ。
茶屋街は江戸時代の成立以降、経済的に余裕のある旦那衆によって支えられてきた。しかし、現在では大勢の観光客が訪れる一方、お座敷を利用する人は少なくなり、このままでは、茶屋文化の灯が消えてしまう可能性もある。
「では、茶屋の持つ価値を生かしながら、旦那衆に代わっていろんな人に茶屋を使ってもらうにはどうすればよいか」。そう考えた結果、たどり着いたのがブライダル事業だったというわけだ。
馬場社長によれば、宇多須神社ではかなりの数の挙式が行われており、この中には披露宴会場として茶屋を使いたいと要望する人も少なくないという。実際、懐華樓でも「ここで日本らしい式を挙げたい」とアメリカ人カップルから申し出を受けた経験もあり、潜在的なニーズがあることも事業化を後押しした。
とはいえ、見城亭にはブライダルを手がけた実績もノウハウもない。そこで、結婚式や披露宴の企画・プロデュースを専門とするベージュ(金沢市)、貸衣装店のことぶき(金沢市)と連携することで、不足していたノウハウを補った。
平成22 年度にはこの事業が「いしかわ産業化資源活用推進ファンド(活性化ファンド)」に採択され、その後、同ファンドの助成事業を活用して、婚礼用パンフレットや自社の送迎バスの車体に付ける看板を制作するなどした。
馬場社長がブライダル事業に力を入れる理由には、「金沢」の名前を世界に発信するという狙いもある。
「ひがし茶屋街や懐華樓は、日本のイメージ映像としてたびたび採用されるが、海外の人にとってみれば、それは金沢ではなく、京都の風景として受け取られている」。馬場社長はこう指摘し、「金沢」を世界の人々にしっかりと印象付けるためにはインパクトのある情報発信が不可欠であり、茶屋を舞台とした和のウェディングは、海外のメディアに取り上げてもらう絶好の題材になると考えている。
ブライダルプランに新たな魅力を加えようと、今後は婚礼に観光プランや宿泊プランを組み合わせた新商品の開発を目指す。見城亭は兼六園の傍らに茶店「見城亭」や大型観光バス用の駐車場を備えた料理店「兼見御亭(けんけんおちん)」を経営することから、大手旅行代理店ともネットワークを持つ。こうした大手旅行代理店と連携し、披露宴に招かれた親類や友人らを金沢の観光地や県内の温泉旅館へ案内する商品をセットで売り出すことで、販促に役立てる計画である。
茶屋文化の未来を見据えた同社の試みに、これからも注目が集まりそうだ。
企業名 | 株式会社 見城亭 |
---|---|
創業・設立 | 創業 大正2年 |
事業内容 | 料理店、茶屋の経営 |
関連URL | 関連URLを開く |
---|---|
備考 | 情報誌「ISICO」vol.64より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.64 |