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オリケンが開発した新織物「ネキーロ」が、脚光を浴び始めている。これは和紙を横糸に織り込んだ生地で、今年2 月には、東京・大阪を中心にオーダースーツの専門店を全国展開する「エフワン」の春夏シーズン向けジャケットの素材に採用された。能登から全国へ—。繊維産業を取り巻く環境が厳しさを増す中、同社では、積極的な販路開拓に活路を見出している。
ネキーロを使った和紙ジャケットは、紳士服専門店「エフワン」(本社:大阪市)の直営店・フランチャイズ店、合わせて100店舗以上で取り扱われている。和紙の性質を最大限に生かしたジャケットは、障子紙のように調湿効果や通気性に優れており、夏でも涼しく着られるのが特徴だ。和紙には保温性もあるため、冬は温かく、販売店ではジャケットに「身につけるエアコン」のキャッチコピーを付け、販売促進に取り組んでいる。
これまでの和紙織物と言えば、どうしても硬くごわごわした感触のものが多かったが、ネキーロは肌触りの滑らかさも大きな特色である。その秘密はオリケン独自の製造方法にある。従来品は和紙を撚って糸状にして織り込んでいたのに対し、ネキーロは和紙をテープ状のまま使い、柔らかな感触を生み出している。専門家でも、触っただけでは紙で織っているとはなかなか気づくことができないほどだ。
原料が紙のため、これまでの素材では難しかった軽量化も実現しており、最も軽いジャケットはわずか250gほどである。
加えて、ネキーロは人と環境に優しい織物である。近年では、化学繊維にアレルギーを示す人も少なくないが、ネキーロは縦糸にも和紙と同じ植物系繊維のレーヨンを使っているので、天然素材でできた商品を求める消費者からも喜ばれている。また、土に還る生分解性を有しており、脱石油という時代の流れにもマッチしている。
オリケンが全国チェーンの紳士服メーカーとタッグを組むきっかけになったのは、昨年4月に大阪市で開かれた大手メーカーグループ主催のイベントに出展したことだった。同社が展示したネキーロのストールやタオルが、来場したエフワン社員の目に留まり、共同開発の話が持ち上がった。
それから1年もたたずに店頭に並ぶことになった和紙ジャケットだが、商品化までの道のりは決して平坦ではなかった。中でも、最も頭を悩ませたのが品質だ。オリケンでは、これまでも全国のアパレルメーカーに生地を提供していたものの、そのすべてがレディースで、メンズ衣料を手がけるのは初めての経験だった。肌触りの柔らかさだけでなく、ジャケットとして使用した際の生地の張りや日常的に使える耐久性など、これまでにない数多くの規格を求められたという。
試作の生地ができるたびに羽咋とエフワン本社がある大阪を行き来し、エフワン社内でも実際にジャケットとして仕立てて試着したり、洗濯したりするなど、繰り返し性能をチェック。7カ月にわたって両社で試行錯誤を重ね、昨年11 月、サンプル品が完成した。販売初年度となる今年は、春・初夏・真夏と季節に応じて、織り込む和紙のテープの幅を変えた3品番を製造している。「共同開発を続け、ゆくゆくはジャケットだけでなく、ズボンも含めたスーツ一式を手がけたい」と、亀井千代子社長は意気込んでいる。
現在、アパレル業界では、流行を取り入れた衣料を低価格で販売するファストファッションの店舗が全国各地に増え、デザインだけで他社との違いを生み出すことが難しくなっている。亀井社長はこうした現状について、「価格以外で差別化していくには、“ 素材” がとても重要になる。つまり、技術力が高く、付加価値のある織物を生産できる県内企業にとって、追い風が吹いている状況だ」と前向きにとらえている。
同社では販路開拓の糸口をつかむため、平成22年にISICOが金沢市の香林坊大和で開いた「石川のこだわり商品フェア」など、県内をはじめ、全国で開かれるさまざまなイベントに出展し、ネキーロの売り込みに汗を流している。これらの取り組みはネットワークの拡大につながっており、平成22年にファッションデザイナー三宅一生氏が手がけるブランド「me ISSEY MIYAKE」に採用されるなど、少しずつ成果として現れているという。
問い合わせがあれば、全国どこへでもサンプル生地を持って車で向かうため、設立以来5年間で走った距離は38万km以上に達する。走行距離にも表れる行動力を武器に、オリケンでは今後、衣料品以外でのネキーロの用途開発に力を傾け、一層の販路開拓を目指している。
企業名 | オリケン 株式会社 |
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創業・設立 | 設立 平成18年9月 |
事業内容 | 各種織物製品の企画・製造・販売 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.62より抜粋 |
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掲載号 | vol.62 |