県内では、産学官の連携によってニュービジネス創造を目指す動きが本格化しています。ここでは、その実例に迫ります。
清酒「天狗舞」で知られる車多酒造は「減塩いしり」を開発した。今年10月から関連会社のジュエイ商事(白山市)が販売している。奥能登の伝統的な魚醤である“いしり”は25%程度の塩分を含むが、この商品では塩分濃度を醤油以下の14%に抑えた。手始めに同社と取引のある全国の酒販店で販売する。
商品化に当たっては、石川県工業試験場化学食品部と協力し、電気透析処理によって、いしりの塩分を除去する加工法を確立した。塩分が減ると腐りやすくなるため、車多酒造が製造する焼酎をブレンドし、アルコールの腐敗防止効果によって保存性を高めた。原料となるいしりはカネイシ(能登町)が供給する。
いしりは塩分濃度が高いため、消費者から敬遠されることも多かったが、同社の徳田耕二常務取締役は「塩分をあまり気にせず、気軽に使える調味料に仕上がった」と胸を張る。いしり特有の旨味が濃厚に感じられる一方、生臭さは抑えられており、徳田常務は「いしりになじみのない奥能登以外の人にも使ってほしい」と期待を寄せる。
また、いしりはアミノ酸やペプチド、タウリンといった成分が豊富で、抗酸化性や血圧の上昇抑制といった機能性に優れた成分を含む食品だが、減塩処理を施しても、こうした成分や機能性は損なわれない。
開発には、県工業試験場のほか、機能性成分の解明や微生物の制御について石川県立大学食品科学科の榎本俊樹教授と小柳喬助教が協力した。
今年5月には車多酒造やカネイシなど4社で合同会社能登いしり(白山市)を設立し、製造・販売体制を整えた。
老舗酒造メーカーといしりの出会いはおよそ8年前。将来の事業のヒントになればと、いしりの機能性を研究する榎本教授の元へ、研究生として社員を派遣したことに始まる。
共同研究に乗り出したのは平成20年で、経済産業省の地域イノベーション創出研究開発事業に採択され、いしりのサプリメントの開発に取り組んだ。平成22年には経済産業省の新規産業創造技術開発費補助金を得て、減塩いしりを完成させた。サプリメントは未完成だが、開発段階で確立した減塩処理技術が役立った。
今年度からはISICOの「いしかわ産業化資源活用推進ファンド(活性化ファンド)」を活用し、販路拡大に取り組む計画である。
企業名 | 株式会社 車多酒造 |
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創業・設立 | 創業 文政6年(1823年) |
事業内容 | 清酒の製造、販売 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.60より抜粋 |
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掲載号 | vol.60 |