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石川県内の中小企業で、航空機産業への参入を目指す動きが本格化している。航空機産業は、将来大きな成長が見込まれる魅力的な市場だが、高度な技術や厳格な品質管理を求められるなど、参入へのハードルも高い。こうしたハードルを乗り越えるため、ISICOでは、単独ではなく中小企業が一つのチームとなって新規受注を狙う取り組みを支援している。今回の特集では、航空機産業に照準を合わせた挑戦についてクローズアップする。
7月12日、石川県地場産業振興センターでJAPANブランド育成支援事業のキックオフミーティングが開催された。この事業は、複数の中小企業が連携して世界に通用するブランド力の確立を目指す取り組みを、経済産業省が後押しするもの。その一つとして、ISICOが申請した「石川県内航空機部品モノづくり中小企業の海外展開支援プロジェクト」が採択されたのだ。当日は、県内企業9社のほか、航空機メーカーと取引実績を持つ大手装備品メーカーなどが参加。今後の戦略について検討するとともに、受注に向けて結束を固めた。
このプロジェクトでは今秋、台湾の航空機部品サプライヤーや東京国際航空宇宙産業展を視察、調査するほか、来年2月にシンガポールで開催される国際航空宇宙展に出展し、受注開拓を目指す。その後も、来年7月にファンボロー(イギリス)で開かれる国際航空宇宙展への出展などを計画。参画企業は、受注に必要となる認証を取得するほか、航空機部品で使われる超高抗張力鋼を使った試作・開発を進める。
これに先駆けて、今年6月にはパリで開かれた世界最大の国際航空宇宙展「パリ・エアショー」に、今回のプロジェクトに参画する県内企業のうち7社が石川県鉄工機電協会の支援を得て出展。加工サンプルを持ち込んで技術力をアピールし、7日間で150件以上の商談を行うなど、新たなネットワークづくりに奔走した。
プロジェクトの萌芽は、20年以上前に石川県中小企業振興協会(平成15年にISICOに統合)が県内企業との取引を要請するため、関西の大手装備品メーカーと折衝したことである。この取り組みが実って、平成2年には鋳造や切削加工を手がける県内企業への発注がスタート。その後もISICOが主催する受注開拓懇談会に大手装備品メーカーを招くなど、ビジネスチャンスの創出に力を入れてきた。
平成20 年には、ISICOが航空機や自動車、産業用ロボットなど、将来有望な事業分野への進出を後押しするために「EM(エム)プロジェクト研究会」を発足。今回のプロジェクトの参加企業を含む20数社が、セミナーや勉強会、展示会や先進企業の視察などに取り組んできた。
平成22年には県とISICOが航空機分野と炭素繊維分野を集中支援する「いしかわ次世代産業創造ファンド」を創設。助成制度を活用して、高林製作所グループ3社が航空機用油圧アクチュエータ(制御用の駆動装置)の一貫共同受注に向けた試作、研究開発を進めているほか、フィッテング久世グループ2社が航空機用大径薄肉チタン管の曲げ加工について技術開発を進めている。日本の企業は技術力に優れているが海外に比べてコストも高く、そのため、日本製の航空機「MRJ」でも部品の70%は海外製が占めるとも言われている。地域の企業が連携して一貫生産することで、納期の短縮やコストの削減を図るのが目的だ。
Flying To The Future
深田熱処理工業(株)
代表取締役社長
深田 健氏
県内中小企業と連携して、航空機部品の一貫共同受注を目指します。熱処理は最重要工程の一つです。温度や真空度、冷却速度をより厳密に維持し、従来以上の品質水準を実現するため、炉を改造し、8月から試作をスタートしました。「JISQ9100」の取得に続き、来春までには「Nadcap」の取得を予定しています。航空機産業に参入することで得られる品質管理、設備管理のノウハウを他の仕事にも生かしたいですね。
自分たちの手がけた部品が航空機に搭載されるとあって、社員のモチベーションも上がっています。「パリ・エアショー」でも多くの企業が関心を示してくれました。技術立国・日本の威信にかけて、このプロジェクトを成功させます。
企業名 | 深田熱処理工業 株式会社 |
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創業・設立 | 創業 昭和38年8月 |
事業内容 | 無酸化焼入れ、高周波焼入れアルミ溶体化処理 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.59より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.59 |