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石川県が創設した「いしかわ産業化資源活用推進ファンド(活性化ファンド)」の認定企業にスポットを当て、地域の資源を生かした商品開発について紹介する。
明治時代から輪島塗の製造を手がける相上(あいじょう)漆器工房では現在、輪島塗の印鑑と印鑑ケースの開発に取り組んでいる。
印鑑は長さ6cmの円筒形で、直径が18mm、15mm、13.5mmの3タイプ。印鑑の素材として一般的なツゲ材を使い、壊れやすい部分に布を貼る布着せを施したり、珪藻土を焼いて粉にした地の粉(じのこ)と漆を混ぜて下地を塗るなど、輪島塗特有の技法によって製造されている。もちろん、堅牢かつ優美な輪島塗らしく、蒔絵や沈金を用いて、花鳥風月を題材とした鮮やかな絵柄が描かれている。
価格は蒔絵の種類によって異なり、3~15万円を想定している。これまで、約30種類の絵柄をサンプルとして制作し、既存の顧客や百貨店等に向けて営業活動を展開中で、すでに受注が決まった案件もある。
同社では、今年秋までに、実印、銀行印、認印を3本セットで収めるための輪島塗の印鑑ケースやパンフレット等の販促ツールを完成させ、本格販売をスタートさせる計画だ。
「輪島塗の印鑑を作ってほしいとの要望は以前からありましたが、ずっと断り続けていたんです」。そう話すのは4代目の相上義澄氏である。家具や食器などさまざまな商品ラインアップがある輪島塗だが、産地では「印鑑には適さない」と古くから言われ、製造する業者は皆無だった。
というのも、輪島塗は木地の表面を漆で覆うことで、水や油の浸透を防ぐのだが、印鑑の場合、どうしても印面の木地がむきだしになってしまうため、ここから朱肉に含まれる油分がしみ込み、漆を劣化、剥離させてしまうからである。
そうは言っても輪島塗の売り上げは減少傾向にある。「ニーズがあるならば、何とかして作りたい」と考えた相上氏は「いしかわ産業化資源活用推進ファンド事業(活性化ファンド)」の助成制度を活用して、試作に乗り出した。その結果、たどり着いたのが、輪島塗の伝統技術の一つで、器の縁などに漆で凹凸を付ける「ちりかけ技法」の応用である。印鑑の縁に近づくほど漆の厚みを薄く仕上げることで、漆が朱肉に接する部分を最小限に抑え、油分の侵入を防ぐ。布着せの際も、極力薄い布を貼るよう工夫した。
相上氏は「印鑑は実用的で、高いニーズが見込める」と語り、「全国の消費者はもちろん、まずは輪島の人に自分用や贈答用として使ってほしい」と期待を寄せている。
企業名 | 株式会社 相上漆器工房 |
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創業・設立 | 創業 明治27年 |
事業内容 | 輪島塗の製造、販売 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.59より抜粋 |
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掲載号 | vol.59 |