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世界一軽くて薄い織物に 加賀友禅の美を表現

印刷ページ表示 更新日:2012年1月16日更新

明日へのチャレンジ

石川県には36業種にも及ぶ伝統工芸が根付き、しばしば「工芸王国」と称される。その多くは苦戦が続いているが、現代的なライフスタイルに合った商品を生み出そうと、意欲的に取り組む担い手の姿もあちこちで見られる。加賀友禅を手がける工房久恒の久恒俊治代表もその一人。伝統の技を駆使して最先端の繊維素材に色鮮やかな絵柄を描くなど、着物という枠にとらわれずにチャレンジを続けている。

幻想的な美しさ 舞台衣装やスカーフに

これまでの繊維製品にはない幻想的な美しさの「羽衣友禅」のスカーフ 久恒代表が加賀友禅を施した最先端の繊維素材とは、七尾市にある天池合繊(株)が開発した「天女の羽衣(はごろも)」である。髪の毛の6分の1ほどという超極細のポリエステル糸で作られたその織物は、ネーミングのとおり、45cm×175cmでわずか7gという驚きの軽さで、手に乗せると、空気をはらんでふわふわと浮き上がるかのよう。透き通っていて光沢があり、肌触りも滑らかだ。
 久恒代表は、この世界一軽くて薄い織物で作ったスカーフに、加賀友禅の技法で染色し、幻想的な美しさを表現した。絵柄はボタンなど、加賀友禅の伝統的なモチーフである花鳥風月を写実的に描くほか、水面に広がる波紋やクジャクの羽根など、新たな題材も取り入れている。
 「羽衣友禅」と名付けられたこの商品は、昨年11月から12月に石川県立伝統産業工芸館で開催された個展で披露されたのをはじめ、演劇の舞台衣装として採用されたり、東京都内の伊勢丹で開かれた催事などでも販売されている。
 今年2月には、経済産業省が各国の大使らを招いて催す新年会にも出品。外交官が早速購入を決めるなど、外国人からの評判も上々だ。

色落ちを防ぐため糊や顔料を改良

久恒代表 久恒代表と天女の羽衣の出会いは昨年6月にさかのぼる。作品の搬入に訪れた県立伝統産業工芸館で、副館長が天女の羽衣で作ったスカーフを身に付けているのを目にした久恒代表は、その透明感と光沢に魅了され、「ぜひコラボレーションさせてほしい」と生地を製造する天池合繊を紹介してもらった。
 天女の羽衣の彩色には、着物と同様、「糸目糊置き」と呼ばれる加賀友禅の伝統的な技法を用いている。糸目糊とは、生地に描いた下絵の線に沿って置く糊のこと。糊で描く線が糸のように細いことからそう呼ばれ、次の工程で彩色した際、色がにじんだり、混ざらないための防波堤の役割を果たす。また、糊を置いた部分は染色されないため、最終工程で糊を洗い流すと、その跡には生地の色が残る。この線の美しさも加賀友禅の大きな特徴だ。
 とはいえ、天女の羽衣ならではの難しさもあった。あまりにも薄いため、色が定着せず、糊を洗い落とす工程で、色も落ちてしまうのだ。そのため、羽衣友禅では、接着剤の役目を持つ特殊な樹脂を加えた顔料を使用。糸目を描く糊も、繊維に残って風合いを損なわないよう改良するなど、工夫を重ね、柔らかな肌触りはそのままに、何度洗濯しても色落ちしない商品に仕上げた。
 現在は、販路開拓の本格化に向け、サンプル制作の真っ最中だ。天女の羽衣はヨーロッパの一流ブランドに認められパリコレでも使用されたほか、パリのオペラ座で上演されたバレエの衣装にも採用されるなど、海外でも評価が高いことから、国内向けはもちろん、外国人が着るドレスに合うよう、金や銀で彩色した羽衣友禅の試作にも取り組んでいる。

伝統にとらわれず時代に合った提案を

木製テーブルに、金箔パネル、ガラス皿、友禅シート 絹製の着物から最新のポリエステルを使ったスカーフへ。描くキャンバスを変えることで加賀友禅の可能性を広げた久恒代表だが、新たな素材への挑戦はこれにとどまらない。
 平成6年には、木材に加賀友禅を施す技法を開発し、翌年には友禅柄を描いた木製のテーブルや衝立(ついたて)が石川県新技術開発交流展で金賞を受賞。その後も、伝統的な技法によって、ガラスや金箔、和紙など、さまざまな素材に加賀友禅の美を再現することに成功している。
 平成18年に開発した「友禅シート」も久恒代表が考案した商品の一つだ。これは、データ化した友禅柄を、プリンターで紙に印刷して樹脂コーティングしたもの。食器を載せても滑りにくく、汚れても簡単に水洗いできるとあってランチョンマットやティーマットとして最適だ。手書きの友禅は高価だが、この商品は一枚2,940 円と手頃で、毎日の生活に気軽に伝統美を取り入れることができる。石川ブランド認定製品にも選ばれた。
下絵の輪郭に沿って「糸目糊」を置いた後、筆や刷毛で彩色する 描けば描いただけ売れた時代もあったが、生活様式は大きく変化し、着物を着る機会も少なくなった。需要の減少とともに、担い手が減る現状に、久恒代表は「このままでは技術の継承もままならない」と危機感を募らせる。
 加賀友禅を持続可能な産業にするには、「時代にマッチした商品の提案が不可欠」と話す久恒代表。伝統的な着物の仕事に取り組む一方で、アルミやチタンを蒸着させた繊維など、これからも新素材との融合に挑戦する。

企業情報

企業名 友禅空間 工房久恒 
創業・設立 創業 昭和62年2月
事業内容 加賀友禅、雑貨・インテリアの制作

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備考 情報誌「ISICO」vol.57より抜粋
添付ファイル
掲載号 vol.57


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