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石川県が創設した「いしかわ産業化資源活用推進ファンド(活性化ファンド)」の認定企業にスポットを当て、地域の資源を生かした商品開発について紹介する。
輪島塗の技術にとどまることなく、その古典技法の復興を図りながら独創的な漆工作品を制作している北村工房では、平成21年度いしかわ産業化資源活用推進ファンド(活性化ファンド)を活用して「腕時計漆文字盤」を開発し、人気を博している。
直径30ミリの金属製文字盤に独自の技術を駆使して漆を焼き付けた上に洗練された蒔絵を施し、時計専門店の天賞堂(東京・銀座)創業130周年記念オリジナル腕時計として制作した。
漆塗や蒔絵の時計文字盤が商品化された例はこれまでにもあった。しかし、その多くは漆工作品としての美しさばかりを強調し、インデックス(時刻を表示する「12」や「6」などの数字や線)が付けられておらず、それでは時計本来の機能が犠牲になってしまうため、同工房では、あえて難易度の高いインデックス付の漆文字盤の制作にチャレンジした。
制作にあたっては印籠(いんろう)や棗(なつめ)の蓋(ふた)と身の合わせ目で用いられる「切合口(きりあいくち)」と呼ばれる精緻な漆工の伝統技法を応用して文字盤の小さな穴をふさがないように慎重に漆を塗り、インデックスをぴったりと接合できるようにした。
腕時計は「J-Face」というブランド名で販売。文字盤は、白漆を塗って金粉を蒔きつけた「SHIRO(白)」、黒漆の上にシュロの樹皮の毛を微細にちりばめた「SHURO(棕櫚(しゅろ))」のほか、「HIRAME(平目)」「AO(青)」「SHUKIN(朱金)」「SHIBUICHI(四分一)」の6種類があり、上品で落ち着きのある色合い、シンプルでスタイリッシュなデザインに仕上げた。各5個を限定制作し、今年3月から天賞堂で販売したところ、評判は上々だという。
今回の腕時計に限らず、北村辰夫代表は、平成20年度の活性化ファンドに採択された模様や色彩の異なる約5×10センチの変塗(かわりぬり)の板を組み合わせた屏風など、漆の可能性を従来の漆工の枠にとらわれない用途や表現の拡大に挑戦してきた。その背景にあるのは、漆産地の深刻な漆器生産の減少や自らの技を発揮できず漆に夢を託せずに苦悶する若い作り手の増加がある。
「漆器業界はこれまでになく危機的な状況にあり、後継者不足も深刻だ。これからもさまざまな分野に漆の技の応用を試み、若い人たちが漆の仕事に魅力を感じ、その技をもって自立可能な環境を整えたい」。北村代表はそう意気込み、今後も、オリジナル腕時計で培った技術をベースに、内外の高級ブランドとの連携を図り、より付加価値の高いものづくりの展開を考えている。
企業名 | 株式会社 北村工房 |
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創業・設立 | 設立 昭和60年1月 |
事業内容 | 漆器製造・販売 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.53より抜粋 |
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掲載号 | vol.53 |