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「右肩下がりの繊維業界は、いつも不況と戦っている。」大手繊維メーカーは生産コストを抑えるため、安い労働力を求めて生産地を中国などに移転し、この10年で中小零細企業への発注は確実に減った。業界全体が不振の中にあって、08年10月決算で、市場最高の売上高28億1100万円を達成した平松産業。何度も不況をはねのけ、業績を伸ばした要因はどこにあるのか、同社の竹田忠彦社長に成功の秘訣を聞いた。
平松産業が業績を伸ばしてきた理由は、二つの言葉に集約される。一つは「挑戦心」である。竹田社長は「常に危機意識を持って、変化を恐れず新しいことに挑戦し、“執念”を持ってやり遂げなければ、会社の存続は難しい」と考え、新規事業を次々と打ち出してきた。もう一つは「社員の結束」である。会社の進むべき道を一方向に定め、「一致団結したプロフェッショナル集団」を生み出すことに腐心してきた。
例えば10年前、同社は傘布地プリント加工で国内シェアの90%前後を独占し、売り上げの80%を占めていたが、中国や台湾などにシェアを奪われ、売り上げは急速に下降線をたどった。業績回復に向けて、無地染めやカーテンの染色などの事業に転換を図ったが、落ち込みに歯止めはかからなかった。
そこで、当時は常務だった竹田社長が8年前に立ち上げたのが、現在、同社の主力となっている高機能フィルム事業だ。このころ国内で、性能の高い高機能フィルムを製造し、ボンディング(接着)・ラミネート(布地などにフィルムを貼る)加工を行っていたのは1社しかなかった。そこで、「採算性がある」と判断し、ボンディング・ラミネート工場を新設するなど、設備投資も積極的に行い、事業の立ち上げから1年という早さで量産体制を築き上げた。
同社の高機能フィルムは、分子や粒子の大きさの違いによって物質を分ける膜分離技術を使ったフィルム。水の分子よりも汗の蒸気の分子の方が小さいことに着目し、汗は発散するが水は通さない、高い透湿・防水性を持つポリウレタン超微多孔フィルムを開発した。世界でも同社しか量産しておらず、高機能フィルムの一つ「ルストレ®FGX」は、トリノ五輪ではスキー・フリースタイルの上村愛子選手のウエアに採用された。
フィルムのボンディング、ラミネート加工にけん引される形で、プリント事業への受注も増え、現在では、高機能フィルム事業関連が売り上げの半分以上を占めている。この事業の成功により、同社の業績はV字回復を果たした。
8年あまりにわたって、会社の屋台骨を支えてきた高機能フィルム事業だが、最近、売り上げの伸びに陰りが見え始めた。そこで、同社では一昨年、元々、得意だったプリント事業を強化するため、インクジェットプリント事業に乗り出した。インクに染料でなく顔料を使用することで、合繊生地をはじめとした、あらゆる布地にプリントできるほか、同社で一貫した後工程が可能なため、プリント後の布地に撥水や防水加工を施せる点が他社にない強みだ。
プリント事業で培った既存の顧客に働きかけることで、インクジェットプリント事業の売り上げは現在、月間1000万円をクリアしている。年内には専用機械を2台から5台に増設する予定で、将来的には売り上げを6億円規模にまで成長させ、同社の基幹事業にしたい考えだ。
そして、将来への備えも怠らない。10年後を見据えた取り組みは現在、始まっており、車の燃料電池やライト部分に使う内圧調整フィルムなど、繊維にとらわれない新規事業の展開もにらむ。
「人は城、人は石垣、人は堀。情けは味方、仇は敵なり」。戦国武将・武田信玄が詠んだ和歌を引き合いに出し、会社を支えているのは“人”だと言う竹田社長。「社員全員がプロフェッショナルの意識を持ち、同じ方向を向いて進んでいれば、会社はなかなか傾かない」との考えから、社員の結束には人一倍、心を砕く。
同社はこの8年間、右肩上がりの成長を続けてきたが、世界同時不況の荒波は少なからず経営に影響を及ぼし、昨年11月からの売り上げは約25%減少した。それでも、大事な社員を守るため、業績が悪化しても雇用を維持し、賃金と役員報酬のカットで乗り切る構えだ。
世界同時不況による売り上げ減は痛手だが、悪いことだけではない。竹田社長は「この不況は、中小零細企業にとって優秀な人材を確保するチャンスだ」と指摘する。実際、今年に入ってから、同社の採用面接に有名大学を卒業した人が応募。この好機を逃さないため、来年の新卒者採用は6人を予定し、会社の発展に欠かせない人材の確保に努める考えだ。
同社は新たな戦力を加えることで、「5年後、売上高50億円の達成」を目標に掲げる。100年に1度の不況もどこ吹く風。その実現に向け、社員一丸となって突き進もうという活気が社内に満ちている。
企業名 | テックワン 株式会社 |
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創業・設立 | 設立 昭和40年6月 |
事業内容 | 合繊織物染色整理加工、介護用品の製造販売 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.46より転載 ※平成25年 平松産業株式会社からテックワン株式会社に社名変更 |
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掲載号 | vol.46 |