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100年に1度とも言われる大不況の中、中小企業はこの荒波を乗り越えていくために、どのような手を打つべきか。今回の特集では、ISICOが開催した「中小企業勝ち残りセミナー」の中から、過去20年にわたって3000以上の工場を訪問し、中小企業の活性化について研究してきた政策研究大学院大学の橋本久義教授が提案する対策の糸口を紹介。同時に、過去の不況を生き抜き、発展を遂げてきた県内2社の取り組みにスポットを当てる。
橋本久義氏
[政策研究大学院大学教授]
日本の企業は他の国々では考えられないような不況の過ごし方をします。例えば、節約する、掃除をする、勉強する、研究開発に取り組む、新分野に挑戦する、サービスを充実するといった具合です。
ある金型メーカーは不況で売り上げが1/3 まで減ったとき、昼は納豆やこんにゃくを行商し、夜は数少ない注文に対して、どうすれば品質を向上できるか知恵を出し合い、これまで忙しくて挑戦できなかった技術や材料を取り入れながら金型を作ったそうです。その結果、不況が終わるころには技術レベルで他社に大きな差をつけました。
また、あるメーカーではまったく仕事がなくなってしまい、職人を遊ばせておくよりましだろうと、「今まで納めた製品をどんなに古くても無料でメンテナンスします」と広告を出しました。依頼のあった得意先を訪ねてみると、作った時には思いつかないような応用をしていたり、ちょっとした治具を付けて生産性を上げていたりと、多くの発見があり、その後の貴重な財産になったとのことです。
不況で業績が悪化するのは仕方ありません。ただ、虎視眈々と人を育て、技術を磨き、チャンスが来たときにすぐに飛び出せる体制を作れるか否か。これが強い企業と弱い企業の差となって表れるのです。
私は日本の企業が不況を乗り越え、生き残っていくには10のキーワード(下記)を挙げたいと思います。
この中で、どの企業にもすぐに実行できるのは「早くやる、間に合わせる」です。他社もできないような安い仕事は採算が合わないかもしれませんし、難易度の高い仕事は現有のスタッフや設備ではできないかもしれません。しかし、納期は努力や工夫次第で何とかなります。
また、仕事が減った時はITに取り組まない手はありません。地方の中小企業は自社のホームページさえ持っていない場合も多いのですが、自社の技術を知ってもらうのに、これほど便利なツールはありません。
アメリカの市場を狙うのも一つの手でしょう。アメリカはフェアな国で、実績がなくても優れた商品ならば、適正に評価し、買ってくれます。
中小企業が不況に克つキーワード [1] アジアに目を向ける [2] 早くやる、間に合わせる [3] 生活に密着した分野で戦う [4] 多くの顧客でリスク分散 [5] 苦労して革新 [6] 連携する(異業種・産学・同業) [7] ITに死に物狂いで取り組む [8] 技術を深める [9] アメリカを狙う [10] 夢を持つ。他人に夢を与える |
欧米の社長にとって企業とは利益を得るための道具に過ぎず、もうからなくなると、つぶすか、捨てるか、売り払うのが常です。一方、大部分の日本の社長にとって会社は我が子です。苦しんでいれば私財を投げ打ってでも助けます。
欧米では昨今、塗装やメッキ、金型、鋳物、板金、熱処理、研磨といった業種が、中国に取って代わられました。その結果、本来ならば中国で作るのが難しい複雑で精密で高級な機械の製造までも中国に頼らざるをえなくなりました。
一方、こうした業種を必死で維持しているのが日本です。日本の中小企業は世界でも群を抜く技術力を有しています。いずれ景気が上向いた時、欧米では作れず、中国では賄えない需要が日本に殺到すると考えています。
円高不況や平成不況など、幾度となく不況を乗り越えてきた日本と違って、中国はこれまで不況を経験したことがありません。不況時の過ごし方を知っている日本は今後、相対的に優位に立てると思います。モノづくりは持久戦です。辛抱しているうちに、必ずチャンスが来ます。夢と誇りとロマンを忘れずに頑張っていただきたいと思います。
企業名 | - |
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創業・設立 | 創業 |
事業内容 | - |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.45より転載 |
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掲載号 | vol.45 |