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ビジネスチャンスの拡大、逆境をバネにランクアップ・・・
さまざまな目的に向け、販路開拓に乗り出した企業の挑戦を紹介します。
山中漆器の素地を製造するタカノが開発した「ふぃっと碗」は、一見したところごく普通のお椀である。真価を発揮するのは、熱々の味噌汁を注いだときだ。中身が熱ければ、お椀も熱くなるのは当然だが、ふぃっと碗は不思議なことに指先に温もりが伝わってくる程度。しかも、その名の通り、指先にぴったりとフィットして持ちやすい。容易に持ち運べて、握力の弱い高齢者や子どもでも使い勝手がよいと好評で、平成16年の販売開始以降、約50万個を売り上げるヒット商品となっている。平成18年、19年度と2年連続で石川ブランド認定製品に選ばれた。
熱くなりにくく持ちやすい理由は、お椀を持つときに指を添える高台の周辺部分に付けられたくぼみにある。このくぼみがあるおかげで、100度の熱湯を注いだ際にも指が触れる部分は50度以下に抑えられる。普通のお椀では70~80度まで上昇するというからその差は歴然だ。また、くぼみの縁に指が引っ掛かるので滑りにくい。
素材としては山中漆器連合協同組合と松下電工(大阪)が共同開発したPET樹脂を採用している。ペットボトルによく利用されるPET樹脂に改良を加えたもので、容易に塗りを施せるのが特徴。電子レンジにも対応可能で、耐熱温度はマイナス20度から140度、食器洗浄機でも洗える。環境ホルモンは一切含まない。
従来、タカノでは百貨店やスーパー向けに製品を販売してきたが、ふぃっと碗では病院や福祉施設、飲食店など、業務用の販路を新たに開拓。回転寿司店用の塗物食器と合わせて、売り上げの約50%を業務用が占めるまでになった。
ふぃっと碗の構想が浮かんだのは高野善誠社長が入院中のことだ。病気で握力が弱っていた高野社長は健康な時には感じなかったお椀の持ちにくさに驚き、退院後、開発に乗り出した。
発売後、平成19年には「ふぃっと碗 Part2」を開発。内側に50cc単位の目盛りを付けて配膳を便利にしたほか、高台に切り込みを入れて、洗浄後の水切りをよくした。
改良のきっかけとなったのは、利用者からの声だった。ある病院にマグカップを納めたところ、目盛りをつけてほしいとの声が寄せられ、これが目盛り付きのマグカップの開発につながり、その後、ふぃっと碗の開発に応用された。また、水切り用の切り込みは、食器洗浄器で洗った際、高台の周囲に付けたくぼみに水がたまってシミができるという病院からのクレームにこたえた結果だ。「利用者からのクレームや自分が感じた不便が新製品のアイデアになる」と高野社長は話す。
今年に入って、お椀の中に立体感のある絵柄を付けた「ふぃっと碗 Part3」を開発したほか、目盛り付きの焼酎用カップ、特殊な六角形の断面で持ちやすく、転がりにくい「ふぃっと塗り箸」と、さまざまな新製品を開発するなど、新市場開拓への挑戦はまだまだ続く。
企業名 | 株式会社 タカノ |
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創業・設立 | 設立 昭和44年5月 |
事業内容 | プラスチック成型品の製造、販売 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.40より転載 |
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掲載号 | vol.40 |