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「日経ものづくり」(日経BP社)の人気連載「開発の鉄人ものづくりを語る」で、開発の鉄人として日本全国の企業の奮闘ぶりを紹介している多喜義彦氏。これまで30年にわたって、3,000件もの開発業務を支援してきたという開発の鉄人に、これからのものづくり企業の道しるべを聞いた。
大事な企画会議なのに、いいアイデアが出なくて困った。皆さんはそんな経験、ありませんか? 私自身、若い頃には、会議のときに限って何も浮かばない状況が何度もありました。それでいて、仕事について全然考えていないときに、ふとアイデアがひらめいたりして、不思議な感じがしたものです。
後になって分かったのですが、この秘密を解く鍵は「三上」にあります。これは、北宋時代の学者、欧陽脩が残した言葉です。欧陽脩は、よい文章を考えるには三上、つまり「馬上(ばじょう)」「枕上(ちんじょう)」「厠上(しじょう)」が適していると言いました。馬上とは、馬の上で揺られているとき、今で言えばドライブ中でしょうか。枕上とはうとうとしているとき、厠上とはトイレをしているときのことです。これらに共通するのは、心が解放され、リラックスした状態にあるという点です。
ですから、企画会議でアイデアを出すには、茶菓子でも食べながら、楽しくやるなど、三上の環境が大切なのです。
その際、一つだけ守ってほしいルールがあります。それは「意見を決して否定しない」こと。否定すれば発言者は委縮してしまい、二度と意見が出なくなってしまうからです。
ところで、なぜ私たちはアイデアを出すのが不得意なのでしょうか。それは、戦後、規格品を大量生産する時代が長く続いたことと無縁ではありません。
大量生産で求められるのは、いつもと同じで間違いのない製品です。しかし、今、社会が求めているのは、一品一様の製品やサービスです。今と昔ではニーズが変化しているのですから、組織のあり方やものの考え方も変化させなければいけません。
ですから、会社でアイデアは出ないと割り切って、外の世界や友達とコミュニケーションをとりながら企画を練るのも、一つの手です。なにしろ、会社とは本来、社員の管理を目的とした組織であり、アイデアを生む三上の環境とは対極にあるのですから。
もう一つ念頭に置いてほしいのは、今までの考え方をすべて否定することです。
例えば、以前、素晴らしい性能の免震装置を開発した企業から、売れなくて困っていると相談を受けました。その際、私は、高級マンションに無料で取り付け、代わりに、入居者のポストにちらしやダイレクトメールを入れる権利をもってはどうかと提案しました。マンションに、年間500万円の消費支出のある家族が100世帯入居すれば、そこには、実に5億円の商機が潜んでいます。マンションのポストは最近、セキュリティが厳重ですから、こうした権利を手に入れたい広告代理店はたくさんあるでしょう。要するに、必ずしも売ってもうける必要はなく、利益を得るためのアイデアを考えればよいのです。
アイデアなくして、新事業も新製品もありません。アイデアのわく三上の環境をぜひ作ってください。
多喜義彦氏
システム・インテグレーション(株) 代表取締役
1951年生まれ。1988年、システム・インテグレーション(株)を設立、代表取締役に就任し現在に至る。新事業の具体的な提案、開発サポート、権利化、市場展開まで幅広い分野の支援を手掛け、現在40数社の技術顧問。NPO日本知的財産戦略協議会理事長、宇宙航空研究開発機構知財アドバイザー、日本特許情報機構理事、金沢大学客員教授、九州工業大学客員教授などを務める。
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創業・設立 | 創業 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.33より抜粋 |
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掲載号 | vol.33 |