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価格競争に巻き込まれず、消費者に強く支持される製品開発が求められる中、その有力な素材として、地域が独自に育んできた農林水産品や伝統文化、観光といった地域資源が注目を集めている。
今回の特集では、地域資源活用型ビジネスに挑戦している2社の取り組みにスポットを当て、現状やこれからの可能性を探った。
加賀一の宮として仰がれる白山比め神社の表参道が、にわかに脚光を浴びている。そのきっかけとなったのが、昨年8月末にオープンした無料休憩所「おはぎ屋」だ。北陸鉄道加賀一の宮駅と神社を結ぶ表参道の大鳥居のすぐ前にある。
広さは約160平米で、和菓子や農産物、工芸品、日本酒など、白山麓の特産品を販売するほか、飲食スペースでは地元豆腐店の厚揚げをのせた「林さんちの油あげうどん」や草餅ぜんざいなどを提供している。構造改革特区制度を利用して、鶴来地区で製造されたどぶろくも人気商品の一つだ。もちろん、買い物や飲食をせずに、一服するだけの利用も可能だ。営業時間は午前9時から午後4時で、年中無休で営業している。
このおはぎ屋で、何と言っても特徴的なのが、観光ガイドなどに取り組むNPO法人加賀白山ようござったの事務所が入居し、実質的な運営を任されているという点である。NPO法人の活動拠点となり、常駐するスタッフと連携することで、施設の利用促進やにぎわいの創出、地域経済の活性化に貢献しているのだ。
オープン前は、正月以外ほとんど人気のなかったこの場所に、現在では、平日で200~300人、土・日・祝日にはその3倍もの人出があるという。
「どれだけ立派なハードが整備されたとしても、ソフトが欠けていては維持していくのは難しい」と話すのはNPO法人の事務局長を務める辻貴弘氏。こうした施設の運営モデルが評価され、今年1月には石川地域づくり協会からグランプリを受賞した。今では、各地域から多くの視察団が訪れている。
おはぎ屋が開設された背景には、表参道を利用する参拝客の減少がある。
白山比め神社では昭和30年代までは、表参道からの参拝が多く、表参道の前は料理店や土産店などが建ち並び、にぎわいを見せていたという。
しかし、昭和40年代以降、道路や駐車場が整備され、モータリゼーションが進展すると、表参道からの参拝は減少の一途をたどった。今では、年間約70万人の参拝客の多くが、神社の北側に整備された駐車場に自動車を止めて参拝するという。
神社のすぐ脇にある駐車場から歩いての参拝は確かに便利だが、白山比め神社では、表参道を通って参拝するのが本来のあり方として、いかに表参道から参拝してもらうかが、大きな課題となっていた。そのためには、表参道の活性化が不可欠だったのだ。
そんな折、表参道沿いにある古民家が、持ち主から神社に寄付されることになり、これを契機に、その古民家を無料休憩所に改装する計画が浮上した。計画に賛同した地元企業10社が「しらやまさん表参道振興事業協同組合」を設立し、無料休憩所の設置を具体化させた。さらに、当時、加賀一の宮駅の一角に事務所を構えていたNPO法人の事務所も入居することになった。
古民家は、約20年前まで茶店として使用されていたものである。当時、おはぎが人気商品だったことに由来して、店名はおはぎ屋に決まった。
昨年8月末のオープン以降、来店者数は、当初の見込みを大幅に上回っている。これにともなって、売り上げも順調に推移している。
この盛況ぶりには、NPO法人が一役買っている。例えば、おはぎ屋をバスツアーや散策ツアーの発着場所とすることにより、出発時や帰着時に利用する人が増加した。また、ツアー中に、NPO法人のガイドが製品に付加価値を与える情報を提供することが、購買の呼び水となっている。このほか、ツアーには、地元住民に親しまれている表参道沿いの商店や料理店を積極的に取り入れるなど、単なる観光ガイドではなく、地元への経済効果を考えた活動を展開している。
また、おはぎ屋をきっかけとした新製品も生まれている。その一つが、笹ずしを作る際に使う木製の型枠である。笹ずしは、白山比め神社のある鶴来地区には欠かせない料理だ。祭りの季節には、どこの家庭でも笹ずしを作り、家族や親戚でにぎやかに味わう。おはぎ屋でも、土・日・祝日には郷土の味として笹ずしを販売している。
ところで、昔ながらの型枠は、笹ずしが一度に120個も作れる大きなものである。しかし、一世帯当たりの人数が減少していることから、「もっと小ぶりな型枠がほしい」との声が寄せられた。そこで協同組合の加盟企業と協力して、12個用と24個用の型枠を製品化した。
観光客、地元客から好評で、首都圏の知人に、お歳暮として型枠に笹ずしを詰めて贈ったところ、たいへん喜ばれたとの声が寄せられるなど、地域固有の食文化の発信に役立っている。
このように、NPO法人のスタッフが情報の発信源として、また、顧客のニーズを探るマーケッターとしての役割を果たしているというわけだ。
もちろん、利用者は決して観光客ばかりではない。地元の人が集まるコミュニティの場としての役割も果たしている。
今年1月には、一層のにぎわい創出を図ろうと、毎週水曜日に一般の主婦らが腕をふるった昼食を提供する「ワンデイシェフ・システム」をスタートさせた。
これは白山市内外から募った一日料理人が、調理師免許取得者の立ち会いの下、おはぎ屋の厨房を利用して、自慢の手料理をふるまうという趣向。1週間の中でも、特に水曜日の来客が落ち込むことから企画された。
手取川のサケや白山麓の山菜など、地元の食材がふんだんに盛り込まれた手料理の評判は、口コミで広がり、毎週用意された70~80食が瞬く間に売り切れるという人気ぶりだ。
おはぎ屋では、今春から、レンタサイクルを設置するなど、さらなる魅力づくりに余念がない。辻事務局長は、「毎年約70万人の参拝客が訪れるといっても、地元の人には実感が薄い。多くの人が集い、行き交う場として機能させ、かつてのにぎわいを復活させたい」と話し、本格的な観光シーズンを前に、新たな集客策に、地域の方々とさらに知恵を絞っている。
企業名 | しらやまさん表参道振興事業協同組合 |
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創業・設立 | 設立 平成18年8月 |
事業内容 | 無料休憩所「おはぎ屋」の企画、運営 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.33より抜粋 |
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掲載号 | vol.33 |