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企業が永続的に発展していくためには、提供している製品やサービスが、時代の流れにふさわしいのか、顧客が求めているニーズに合っているのか、常に見直し、それらにマッチした新製品、新サービスを開発する必要がある。
そして絶えまない革新こそが、他社との差別化やシェア向上、販路拡大につながっていく。
そこで、今回の特集では、これまで培ってきたノウハウを生かしながら、新製品の開発に挑戦している2社の取り組みを紹介する。
空港のロビーなどで販売している弁当、通称“空弁(そらべん)”。オリジナリティあふれる全国の弁当がしのぎを削る中、羽田空港で話題となっている石川県生まれの空弁がある。それが、北陸リネンサプライが開発した「守岡さんちの焼きいなり」だ。
この製品は、一言で言えばいなりずしだが、随所に工夫が凝らされている。
まず、油揚げは、普通のいなりずしで使用される薄いものではなく、厚揚げである。国産大豆と白山の伏流水、天然のにがりで製造された厚揚げは、消泡剤を使用せず、包装後に加熱殺菌しないというこだわりの逸品だ。
これを、伝統的な製法で製造された地元産のしょう油、酢、みりんを合わせた特製のダシに一晩つけ込んだ後、ふっくらと焼いて焦げ目を付ける。
中身は、ちらしずしと鶏ごぼうの炊き込みご飯の2種類だ。白山市内の契約農家が低農薬で育てた米に、能登産の地鶏や加賀野菜といった具材がふんだんに盛り込まれている。
一口ほおばると、大豆の旨味と焼いた揚げの香ばしさが口いっぱいに広がる。ご飯と揚げの相性は抜群で、ボリュームも満点だ。
ところで、社名からも分かるように同社の本業は、リネンサプライ業である。ちなみにリネンサプライとは、シーツや枕カバー、浴衣、タオルといった繊維製品を旅館やホテルにレンタルすると同時に、使用済みのものを回収、クリーニングし、再び貸し出すサービスである。
昭和40年の設立は、業界の中では古参であり、加賀温泉郷や芦原温泉の旅館、金沢市内のホテルなどと契約を結んでいる。
一見、食品とは一切かかわりのない同社が、なぜ、空弁の開発に取り組んだのか。そのルーツは、昭和46年にさかのぼる。この年、同社では、リネンサプライで取引のあった旅館からのニーズを見越して、炊飯事業に乗り出した。当時は、旅館の大型化による人手不足などから受注を伸ばし、昭和51年からは加賀市内の小・中学校の学校給食にもご飯を提供している。以来、炊飯事業はリネンサプライと並んで同社の事業の柱として成長し、今回の開発のベースにもなった。
また、同社が自社製品の開発へとかじを切った背景には、温泉旅館の低迷がある。バブル崩壊後、不況や温泉客のニーズの変化によって、稼働率を下げたり、廃業する旅館が出てくると、それに合わせて同社の業績も伸び悩んだ。
そこで、もう一つの柱である炊飯事業を伸ばそうと、自社製品の開発に取り組んだというわけだ。
開発をスタートさせたのは、平成13年である。当初は、スーパーでの販売を見込んで、巻きずしやおにぎりをメインにすえた弁当を製造した。長年の炊飯事業のノウハウがあり、大きな釜で炊き上げたご飯の味には自信を持っていた。酢飯用の酢も、専用にブレンド。100%天然果汁から作ったオレンジゼリーなど、デザートにもこだわった。
苦心して製造した弁当だったが、店頭に並ぶとすぐに他社が追随してきた。一見して中身に大差がなければ、いや応なしに価格競争にならざるをえない。こうした状況に直面した守岡伸浩社長は、「他社にまねのできないオリジナリティの高い製品を作らなければ勝ち目はない」と考えた。
新製品の開発に際しては、ご飯のおいしさを十分に味わってもらえる製品に絞った。そして、工場の衛生管理などについてアドバイスを受けていた食品衛生コンサルタントから、白山のふもとで堅豆腐づくりなどを手がける山下ミツ商店を紹介してもらった。これをきっかけに、いなりずしに絞った開発を進めていった。
「既存の製品とは違ういなりずしを」という開発コンセプトを掲げ、味はもちろん、大きさや形を吟味していった。多少価格が上がっても、素材にはこだわった。値段だけでなく、そうした付加価値を理解してくれる人をターゲットにしたいと考えたからだ。
1年間の開発期間を経て、平成17年1月に完成した「守岡さんちの焼きいなり」は、県内外のデパートの物産展などを中心に販売し、購入者からの評判も上々だった。
羽田空港への進出は偶然の巡り合わせによるものである。デパート向けに空弁や駅弁を集めた催しなどを企画する会社に売り込みに行ったところ、「ちょうど羽田空港に商談に行くところだから一緒に行かないか」と誘われたのだ。
守岡社長は渡りに船とばかりに羽田空港の売店を運営する企業の一つ、羽田空港ビルディング(株)にアプローチした。商談は、とんとん拍子にまとまり、平成17年9月には第1ターミナル、第2ターミナルの売店での販売がスタートした。発売後は、空弁として1日40個売れれば上出来と言われる中、1日50~100個も売れるヒットとなっている。
また、平成18年度の石川ブランド優秀新製品の認定も受けた。
今年2月には本社の隣接地に新工場を稼動させ、増産体制を整えると同時に、より高度な衛生管理、品質管理を実現させる。
今後は、ネットショップに出品するほか、いずれは会社にも店鋪を併設するなど、販路を拡大する考えだ。
もちろん、第2、第3のヒットを目指して、引き続き、開発が続けられている。次の商品は加賀の郷土料理の一つ、柿の葉ずしをモチーフに構想を練っている。
一方で、リネンサプライにおいても意欲的な事業展開をみせている。3年前にはオリジナル製品として、一人用サウナマットを開発した。これは、帝人ファイバー(株)(大阪府)と共同で開発したもので、直径10ミクロンのマイクロファイバーを使用。特殊な3層構造によって、素早く水分を吸収する。
サウナでは通常、大判のマットが敷かれており、誰かが座った後は、どうしても濡れたままになってしまう。この商品はサウナに入る際、一人ひとりが持ち込むもので、濡れたマットに座らなくていいと好評を得ている。今後、旅館や日帰り温泉施設、サウナやゴルフ場などへの営業を強化していく計画だ。
「モノあまりの時代だけに、多少値が張ったとしても、選んでもらえる製品を作りたい」と守岡社長。これからも、品質がよく、付加価値の高い製品開発にまい進する考えだ。
企業名 | 北陸リネンサプライ 株式会社 |
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創業・設立 | 設立 昭和40年3月 |
事業内容 | リネンサプライ業、用品販売事業 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.32より抜粋 |
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掲載号 | vol.32 |