製品やサービス、事業にライフサイクルがある以上、
企業が持続的な発展を目指そうとするならば、既存事業の拡大はもちろん、
経営の多角化や新分野進出は重要な企業戦略の一つである。
自らの経営資源を生かしながら、新たなビジネスの種を見つけ出し、
意欲的に事業展開を図る県内企業2社の取り組みに迫った。
能美市にある根上工作所では、ここ数年、交通量の少なくなる時間を見計らって夜間に出発する大型エアサス・空調トレーラーの台数がめっきり多くなった。トレーラーに積まれているのは、液晶テレビのパネルの一部として使用されるガラス基板の製造装置である。積み荷の大きさは長さ4m、幅3m、高さ1.5m。重さは25トンにもなる。
液晶テレビはかつて、高画質だが画面の大型化が難しいと言われていた。しかし、技術革新によって大型化が進んでおり、もはや50型以上の製品も珍しくない。そのため、画面の大型化と同時に、製造のコストを下げるため、パネルの製造装置も大型化している。
現在、主流となっているガラス基板は業界で第7世代(1.9m×2.2m)と呼ばれ、さらに、これからは第8世代(2.2m×2.65m)へのシフトが見込まれている。ちなみに、1枚のガラス基板から取り出せるパネルの枚数は、第7世代ならば46型で6枚、40型で8枚となっている。これが第8世代になると、50型が6枚、46型ならば8枚とれることになる。
そもそも同社は昭和21年の創業以来、油圧プレス機を専門に、特注で製造してきた。昭和40年代から平成の初めにかけて主力だったのは、テレビのブラウン管内部にあるシャドーマスクという小さな丸い穴が規則的に多数開いた金属板を成形するための油圧プレス機だった。シャドーマスクとは、テレビの画質を左右する重要な部品である。0.13mmという薄さに加え、穴が開いているために加工が難しいとされていたが、同社の油圧プレス機は高精度で歩留まりが高いと評判を呼び、国内の大手家電メーカーほぼ全社から受注した。また、中国や台湾など、多くの海外メーカーからも受注が舞い込んだ。
しかし、液晶テレビの登場などによってブラウン管テレビの需要が下がってくると、シャドーマスク成型プレス機の需要も次第に下降線をたどった。さらに、バブル景気の崩壊がこれに拍車をかけ、ピーク時には15億円あった売り上げが平成12年には6億5000万円にまで落ち込んだ。
転機が訪れたのは、6年前のことだった。半導体・液晶製造装置や印刷機器などのメーカー・大日本スクリーン製造(株)(京都市)から急激な需要増に対応するため、ガラス基板の製造装置のOEM生産を持ちかけられたのだ。
シャドーマスク成型プレス機で得た高い評価を見込まれてのオファーだったが、シャドーマスクとガラス基板はまったく別物だ。引き受けるとなれば数千万円の設備投資も必要となる。しかし、南雅雄社長の決断は早かった。すぐにクリーンルームを整備し、生産にとりかかると、板金溶接や組立、配管など、プレス機で培ってきた技術が役に立って、事業は順調なすべり出しをみせた。
液晶製造装置で使用する部品は、産業機械以上のクリーン度と品質が要求されたが、この問題も全社と協力工場が一丸となって努力し、メーカーの要求するレベルをクリアした。
その後、ガラス基板の大型化にともない装置もさらに大型化し、これが同社への追い風となった。なぜなら装置や部品が同社の得意とする大型天井クレーンを使用しないと製造できない大きさになってしまったからである。同社ではクリーンルームの増床を重ね、平成16年には1,200平方メートルの新工場を建設するなど、生産体制を強化していった。その結果、売り上げは右肩上がりに伸び、平成16年には20億円に達した。
創業以来の主力業務である油圧プレス機の分野でも、平成16年に世界有数の油圧プレス機メーカー・ファインツール(スイス)と業務提携し、強化を図っている。
ファインツールが得意とするのは「ファインブランキング」と呼ばれる加工である。板厚の厚い金属を精密に打ち抜く加工で、カエリがほとんど出ないのが特徴。そのため、切削加工やフライス加工などの二次加工が不要になる。
ファインツールは日本、東南アジア市場への販売を強化するに当たり、生産拠点として根上工作所に白羽の矢を立てた。同社では、スイス本社に技術者を派遣して、技術を習得。すでに生産にとりかかっている。
このほか、デジタル家電などに搭載される磁気ディスク研磨機のOEM生産も事業の中核の一つになっている。
現在、同社には液晶関連装置、油圧プレス機、研磨機という3本の柱があり、それぞれ今期は7億、6億、9億円の売り上げを見込む。南社長は「昔からやっていた油圧プレス機だけで事業を続けていくのは至難の業。私たちは“機械づくりで世の中に貢献する” という経営理念のもと、顧客から寄せられてきたニーズにどん欲にチャレンジし、一つ一つの仕事をきっちりとやり遂げてきた。その結果が現在につながっている」と胸を張る。 そして、事業を柱として育てていくコツを次のように語る。「一度やると決めたなら、しっかりと腰をすえて取り組むことが大切。そうすることで、技術やノウハウをマスターできる。片足だけを突っ込んで、様子を見るというやり方では、技術が社内に蓄積されません」。
順調な展開をみせる同社だが、同社が手がける分野はいずれも変化の波が激しい。南社長は「5年後にも3本柱がこのまま残っているかどうかは分からない」と危機感を募らせ、現在の状況に安住するのではなく、次の柱づくりを目指して新たな一手を模索している。
企業名 | 株式会社 根上シブヤ |
---|---|
創業・設立 | 設立 昭和31年4月 |
事業内容 | 油圧プレス機、液晶関連製造装置、研磨機の製造 |
関連URL | 関連URLを開く |
---|---|
備考 | 情報誌「ISICO」vol.29より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.29 |