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開発の鉄人に聞く! これからのものづくり vol.2
「日経ものづくり」(日経BP社)の人気連載「開発の鉄人ものづくりを語る」で、開発の鉄人として日本全国の企業の奮闘ぶりを紹介している多喜義彦氏。これまで30年にわたって、3,000件もの開発業務を支援してきたという開発の鉄人に、これからのものづくり企業の道しるべを聞いた
「御用聞き」に 成功のヒントがある
戦後の日本は、大量生産のビジネスモデルで経済を復興し、暮らしを豊かにしてきました。この時代に経営者が社員に向かってよく言ったのは、「手離れをよくしろ」ということでした。つまり、一つの売り先に長くかかりっきりになるのではなく、手早く売ってどんどん新しい客を見つければ、それで良かったのです。
しかし、手離れがよくていいのは大量生産によって経済が急速に拡大していくときの話です。今の日本のように、多品種少量生産が求められ、膨らんだ経済が縮んでいく時代には、手を離した瞬間、客が目の前からいなくなってしまったなんて事態になりかねません。
そこで、これからのビジネスで大事なのが、客との「しがらみ」をいかに増やすかということです。これまで、全国のものづくり企業にさまざまな提案をしてきましたが、製品自体が悪いケースはまずありません。足りないのは、しがらみのないビジネススタイルなのです。
かつての日本の商習慣である「御用聞き」ビジネスが昨今注目されているのも、客との接点を増やす重要性を端的に表していると思います。
優秀な製品はあえて売らない手もある
客とのしがらみを作るためには、後で必ずリピートが来るとか、客から連絡が来る仕掛けをしのばせておくのも一つの手です。
例えば身近で言えば、複写機メーカーのビジネスモデルがそれにあたります。ほとんどの複写機はリースという仕組みで利用されています。リースは世界でも日本のメーカーが初めて試みたシステムで、客との関係を維持し続けるにはうってつけです。売っておしまいではありません。消耗品の交換やメンテナンスで定期的に客先を訪れ、いつまでたっても手離れしない仕組みになっています。
訪問した際、クレームや意見が寄せられるかもしれません。それは、言ってみれば客のニーズが読めるということ。次の開発に必ず役立ちます。
トヨタが展開しているレクサスの販売スタイルもしがらみ作りのよい例です。客と長く付き合っていくために、ハードとソフトの両面で、サービスやおもてなしを徹底しています。世界のトヨタでさえ取り組んでいるのですから、中小企業がやらなければ取り残されるのは目に見えています。
製品そのものではなく、届ける方法やアフターメンテナンスなどを工夫し、関係を途切らせない仕組みを考えてみてください。
効率ではなく心のつながりを見直せ
しがらむことの大切さが分かると、社員に対する見方も変わってきます。
従来、社員の評価は、てきぱきと一人でたくさん売る人が重宝されました。しかし、これからは、いかに継続的な関係を持てるかが求められる適性になります。客先で話し込んだり、本業以外の仕事に首を突っ込むような効率の悪い社員は疎んじられたものですが、今後はそんな社員こそが評価されるでしょう。
もはやビジネスは効率ではありません。ハートとハートのつながりを忘れないでください。
多喜 義彦氏
システム・インテグレーション(株)
代表取締役
1951年生まれ。1988年、システム・インテグレーション(株)を設立、代表
取締役に就任し現在に至る。新事業の具体的な提案、開発サポート、権利化、市場展開まで幅広い分野の支援を手掛け、現在40数社の技術顧問。NPO日本知的財産戦略協議会理事長、宇宙航空研究開発機構知財アドバイザー、日本特許情報機構理事、金沢大学客員教授、九州工業大学客員教授、立教大学大学院講師などを務める。
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創業・設立 | 創業 |
事業内容 | - |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.27より抜粋 |
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掲載号 | vol.27 |