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ISICOでは平成19年に「革新的ベンチャービジネスプランコンテストいしかわ」を初開催して以降、最優秀起業家賞と優秀起業家賞に合わせて50人を選び、これまでにバイオやIT関連などの幅広い分野のビジネスの具現化を支援してきた。ところで、読者の皆さんにとっては、厳しい審査を勝ち抜いた受賞者たちがその後どのように成長したのか、気になるところだろう。そこで今回は平成21年度のコンテストで優秀起業家賞に選ばれたバイオセラピー開発研究センターの豊田剛史社長の取り組みについてレポートする。
今年4月、平日でも大勢の観光客でにぎわうひがし茶屋街のすぐ近くに一軒のアイスクリームショップがオープンした。「金座和(かなざわ)アイス」である。看板メニューは「溶けない!?アイス」だ。真夏の暑さでも30分は形が崩れないというユニークなアイスだ。雪づりや福梅、梅鉢紋、人気キャラクターのくまモンなどをかたどった棒アイスと串に刺しただんご形のアイスを販売し、それぞれバニラ、抹茶、イチゴ味がある。お好みで能登産のブルーベリーやイチゴのソースと金箔を振りかけて食べる。
この「溶けない!?アイス」を企画、製造、販売するのがバイオセラピー開発研究センターである。同社は金沢大学の太田富久名誉教授と連携し、健康や美容に有用な天然成分の研究開発とそのビジネス化を手がける企業だ。同社が開発した商品のひとつがイチゴから抽出したポリフェノールである。イチゴポリフェノールにはクリームに含まれる油分と水分が分離するのを防ぐ作用があり、これを配合することで時間がたっても溶け出しにくいアイスになるというわけだ。
金座和アイスのオープンからさかのぼること8年前、コンテストに出場した豊田剛史社長が発表したのがイチゴポリフェノールを利用した事業計画だった。当時、着目していたのはイチゴポリフェノールに含まれる糖の吸収をブロックする作用やメラニンの生成を抑える作用である。平成21年にはイチゴポリフェノールの粉末や濃縮液をダイエットや美白、アンチエイジングなどを目的としたサプリメントの材料として、大手健康食品メーカーなどに販売することからスタートした。
続いて、東日本大震災による津波で壊滅的な被害を受けた宮城県内のイチゴ農家が復興を遂げた際には、美容液や石けんなど、化粧品の原料として宮城産イチゴのポリフェノールの供給を始めた。
このほか、同社では金時草、ハトムギ、セリを粉末状にした食品原料を開発するなど、商品ラインアップを拡充していった。
金座和アイスが生まれるきっかけになったのは、イチゴポリフェノールを配合した化粧品を愛用していたあるパティシエからの問い合わせだった。
化粧品を使って肌の調子がよくなったパティシエが、「体にいい成分であれば、スイーツにも取り入れられないか」とイチゴポリフェノールを取り寄せ、生クリームに混ぜてみたところ、生クリームが短時間で固めのホイップクリームのようになったため、何か添加物でも入っているのではと連絡してきたのだ。
もちろん、同社のイチゴポリフェノールは添加物など混ざっていない天然素材100%の商品だ。ただし、金沢大学で検証してみると確かにイチゴポリフェノールにはクリームの保形性を高める作用があることが分かり、この特性を生かしてアイスを商品化することにした。
溶けにくいアイスはこれまでも開発事例があるが、従来は化学合成物を使用するほか、天然素材であっても食感がかちかちになるなど、完成度が低かった。
その点、イチゴポリフェノールを配合したアイスは既存のカップアイスくらいのほどよい固さで、時間がたった後もプリンのようなとろりとした食感を楽しめる。その上、糖質の吸収を抑える作用もあり、食べても太りにくいアイスとなっている。
溶けにくいというだけでは訴求力が弱いと考えたことから、優れた保形性を生かし、日本の文化をテーマに、さまざまな形状のアイスを作ることにした。
発売後は購入者がドライヤーを当てて本当に溶けにくいのか検証している様子や店に備え付けたチョコペンでデコレーションしたアイスなどがSNSやYouTubeで発信され、瞬く間に人気が急上昇した。金沢に続き、7月には東京、大阪、11月にはイオンモール新小松でも直営店をオープン。横浜や沖縄でもフランチャイズ店がお目見えする。さらに海外からも扱いたいという要望が立て続けに舞い込んでいる。
東京・原宿の店舗では1カ月に約1万本を販売する人気ぶり。商機を逃すことのないよう、同社では金沢市内に日産1万個を生産可能なアイスクリーム工場を建設し、供給体制を整えた。従業員数は昨年の10人から4倍以上に増え、売り上げも急カーブを描いて伸びている。
「コンテストに参加し、ISICOの経営支援を受けたことをきっかけに金融機関とつながりができて、スタートアップ時に資金提供を受けることができました。イチゴポリフェノールを使ってアイスの保形性を高める製造法を開発し、国際特許を取得する際にも、専門家派遣制度によって弁理士の協力を得ることができ、助かりました」(豊田社長)。
今後は店舗を増やしながら、卸販売にも力を入れる計画で、既に病院食としての採用を目指してカップアイスを商品化し、営業活動を進めている。
もちろん、金沢大学や他の大学と連携し、野菜や果物などの新たな機能性成分の研究とその成果を生かした商品開発には継続的に取り組む考えだ。「将来的には日本の余剰食材を粉末加工するなど世界中で有効活用できるようにして、飢えをなくしたい」と話す豊田社長。これからの取り組みにも大いに期待がかかる。
企業名 | 株式会社 バイオセラピー開発研究センター |
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創業・設立 | 設立 平成18年4月 |
事業内容 | 食品・医薬品素材の研究開発、機能性食品開発など |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.97より抜粋 |
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掲載号 | vol.97 |