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企業が競争力を高めるためには、他社と差別化できる商品やサービスの開発、業務の合理化・省力化が欠かせない。人口減少時代に突入し、人材不足への対応も急務だ。これらの課題を解決する上で、切り札の一つとして期待されているのがIT活用だ。そこで、今回の巻頭特集ではISICOが支援した企業の中から、ITを積極的に活用して経営課題を克服し、業務の効率化や業績向上を果たした2社の事例を紹介する。
工作機械や鋼材など重量物のトラック運送を手がける野々市運輸機工では、今年5月から受発注システム「NONOCOM order(ノノコム・オーダー)」の運用を開始した。開発したのはクラウドを活用した受発注システムの開発で豊富な実績を持つアクロスソリューションズである。受発注に電話やファクスを使うことが多い運送業界においては先進的な取り組みだ。
仕組みは次の通りだ。まず、発注企業はあらかじめ付与されたID、パスワードを使ってパソコンやタブレット、あるいはスマートフォンで「NONOCOM order」にログイン。トラックの写真がずらりと並んだ画面から車種、荷台サイズ、最大積載量を考慮して使いたいトラックを選び、必要な台数を入力する。後は集荷と配送を希望する日時、発着地を選んで送信するだけだ。この情報を受け取った野々市運輸機工では、配車担当社員が内容を確認の上、受注を確定。この内容がそのまま基幹システムにも反映される。
使用するトラックや発着地が毎回ある程度決まっている場合は、「お気に入り」に登録しておき、発注時にそのデータを呼び出せば、より発注業務が簡素化される。また、AIによって企業ごとの発注パターンをシステムが学習するので、使い込むと、よく利用するトラックや発着地が上位に表示されるようになっている。
運用開始から2カ月で野々市運輸機工の取引先の10%に当たる20数社が利用を開始。吉田章専務は「受注業務の効率化が進んだ」と手応えを話す。
「運送業界では電話やファクスを使った受注がほとんど。当社も例外でなく、システム化する以前はまず電話で受け付け、詳細をファクスで知らせてもらっていました」(吉田専務)。電話では聞き間違いや聞き漏らしもあり、山のように積まれたファクスの中から目当てのものを探すのもひと苦労だ。その上、配車担当は2人しかいないため、別の電話に出ていたり、席を外したりしているときは電話がかかってきても応対できず、商機を逃してしまうこともあった。
「多くの産業でウェブを活用して受注しているのに、なぜ運送業界では進まないのか。どこもやらないだけで、やればできるのでは?」。そう考えた吉田専務は昨年10月にISICOに相談。相談内容を踏まえてITアドバイザーがマッチングしたのがアクロスソリューションズだった。
アクロスソリューションズでは、独自に開発した中小企業向けの受発注システム「MOS(モス:モバイル・オーダリング・システム)」を食品や酒、化粧品などの製造・流通企業に提供している。運送業向けの開発案件は初めてだったが、このMOSをカスタマイズすることで野々市運輸機工の要望を実現した。
発注企業と野々市運輸機工の間で短い文章をやり取りできるチャット機能もカスタマイズの一つである。これは吉田専務の発案で付け加えたもので、注文内容に不備があった場合などにチャットを通じたコミュニケーションで調整する。従来であれば、電話で問い合わせ、発注企業の担当者が不在であれば何度もかけ直すなどしなければならなかったが、チャットの利用によって、こうした手間を省けるようになった。
また、発注時に添付ファイルを送信できる機能もプラスした。配送先の中にはまだ詳細な地番が決まっていなかったり、搬入場所が分かりにくいケースもある。こうした場合、あらかじめ詳細な地図など送ってもらえば仕事がスムーズに進むというわけだ。
システムは専用のサーバやソフトのインストールが必要のないクラウド型で、既存のものをカスタマイズしているため、オーダーメードした場合に比べて開発費用は約3分の1に抑えられた。活性化ファンドにも採択され、その助成金も活用している。ゼロから作れば開発にも1年近くを要するが、今回はわずか3カ月で稼働させることができた。
運用開始にあたっては、まず取引の多い発注企業に「NONOCOM order」の使い方を説明して回った。「便利なシステムとはいえ、結局電話で注文が入ってくるのではと心配したのですが、どの取引先も翌日から使ってくれています。年配の人にも使い勝手がよく、特に女性からの受けがいい」(吉田専務)。
この点についてアクロスソリューションズの野村充史社長は「受発注システムは発注側が使ってくれなければ意味がありません。ですから、MOS はユーザー目線を何より大切にしていて、操作が簡単で使いたくなるようなデザイン性、画面設計を心がけています」と説明する。
導入後は電話でのやり取りが減り、受注業務が効率化されたほか、空いた時間をドライバーとの打ち合わせなど、人にしかできない仕事に割けるようになった。注文の取りこぼしがなくなったほか、受注がすべて見える化されるため、たとえ自社のトラック台数でまかなえない量の仕事を受けたとしても、前もって協力会社に車両を融通してもらうといった対応も取りやすくなった。
今後は「NONOCOM order」の手軽さを武器に営業ツールとして活用し、新規顧客獲得に向けて取り組んでいく考えだ。
企業名 | (株)アクロスソリューションズ |
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創業・設立 | 設立 2006年5月 |
事業内容 | 各種受発注システムの開発など |
企業名 | 野々市運輸機工 株式会社 |
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創業・設立 | 創業 1966年1月 |
事業内容 | 一般貨物自動車運送事業 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.101 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.101より抜粋 |
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掲載号 | vol.101 |