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少子高齢化が進み、労働力不足が課題になっている昨今、働きやすい職場環境を実現できるか否かは、技術開発や販路開拓などと並んで企業の発展に関わる重要な問題と言える。「性別や家庭の事情に関係なく能力を生かすことができる」「若い人材が会社に定着して活躍できる」「健康的で安全に働くことができる」。今回の特集では、そんな職場を目指し、意欲的に改善活動に取り組んでいる県内企業3社の事例を紹介する。
工作機械用のベッド(本体を構成する土台)など中型・大型の鋳造品を製造する中川鉄工所では昨年6月、砂型の造型工場にクール・クリーンシステムを導入した。
このシステムは外気を水で冷やして室内に送り込む気化放熱式涼風装置と空気を対流させるファンを組み合わせたものだ。
造型工場は砂型を成型した後、火を使って乾燥させるため真夏には室温が40℃に達することもあり、作業者の顔から汗がしたたり落ちるほど。それがシステム導入後、室温は36℃にまで下がった。
ファンはあくまでも気流を生み出すための装置で、スポットクーラーのようにピンポイントで直接作業者に冷気を当てるわけではない。それでも、作業者の頭上を涼風が循環し、人体の周囲にある暑い空気もそれに引っ張られるように流れるため、体感温度が下がり、作業していて汗がにじむ程度の暑さにまで軽減された。
搬送用の台車が頻繁に出入りするため、工場の扉は開け放たれていることが多いが、一般的な冷房設備と違い、それでも効果はほとんど落ちない。
また、ファンを回すことで砂型を作る際に室内に舞う粉じんを排出することにもつながっている。そのため、冬場はファンだけを稼働させ、室内環境をクリーンに維持。屋外ではネットを設け、排出された粉じんが大気中に拡散しないように配慮している。
こうした取り組みの原動力となっているのは「とにかく働く環境をよくしたい」という中川國雄社長の思いだ。熱した金属を扱う鋳物業界では、工場が暑いのは仕方ないと受け止められているが、「いつまでも社員を我慢させるわけにはいかない」とこれまでもさまざまな対策を施してきた。
例えば、1,500℃の溶けた鉄を型に注ぐ熔解・注湯工場は天井が高く、高所にたくさんの窓を設ける構造にした。窓を全開にすることで立ち上った熱気を逃がしやすくしたのだ。
一方で対策が難しかったのが砂型造型工場である。敷地内でも風通しのよい場所にある熔解・注湯工場に比べ、砂型造型工場は二つの建物に挟まれるようにして建つ。窓を開けていても熱がこもりやすく、夏場は冷たい飲み物や塩飴などを配って熱中症対策をしていた。
何とか手を打ちたいと中川社長がまず相談した大手業務用エアコンメーカーからはかなり高額の導入費用が提示された上、鋳物工場への導入実績がないため効果も保証できないとの回答だった。次に相談したISICOのアドバイザーが紹介したのが今回のクール・クリーンシステムを納めた名古屋の大冷工業だ。同社でも鋳物工場で施工した経験はなかった。しかし、工場の状況を確認してもらったところ、大手メーカーの6分の1ほどのコストで3℃から7℃は下げられるとの見込みを示したことから導入を決めた。
業界団体の会合時などに中川社長が導入効果について紹介すると「信じられない」との声が相次いだという。鋳物工場にとってはそれだけ画期的な取り組みというわけである。
中川社長は「気持ちよく働ける環境になった」と胸を張り、今後、生産性の向上や人材の採用・定着といった波及効果にも期待を寄せている。
企業名 | (株)中川鉄工所 |
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創業・設立 | 創業 1945年10月 |
事業内容 | 各種鋳造品の製造、販売 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.104 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.104より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.104 |