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森本金網製作所では、リーマンショックに端を発する世界的な不況で苦境に立たされたのを機に、他社では加工困難な極細の金属線で金網を作り上げる技術を磨き、中には同社しか織ることのできない素材もあるほどだ。同社の生み出す金網は、電子部品など日常生活で使われるハイテク機器の生産を支えており、増産需要に応えるため、ISICOの支援を受けて織機を導入するなど、生産体制の強化に余念がない。
森本金網製作所が製造する金網は、自動車のガソリンやエンジンオイルをろ過するフィルター、半導体の回路のパターンを基板に印刷する際に不可欠なスクリーンメッシュなどとして使用される。
電子部品などで使用する半導体は年々、小型化が進み、その分、より細い金属線でより小さな編み目を作ることが要求される上、生産にも時間がかかり、完成までに半年もの間、織機を独占する製品も少なくない。
注文は次々と舞い込んでいる。現在、向こう1 年間で900平方メートル分の金網の製造を受注しており、所有する織機26台は常にフル稼働に近い状況だ。そこで、生産力アップに向けて2018年にISICOの設備貸与制度を活用して、金網織機4台と整経機など計8台を導入し、3月には次世代ファンドの助成金で筬(おさ)通し機を導入する予定だ。
中でも筬通し機は全自動で、縦糸を筬に通す手作業が不要となり、スピードアップが実現する。森本陽介社長は「これまで3~4日かかっていた作業が8時間に短縮されるので大幅に作業効率が上がる」と新たな戦力に期待する。今年3月から試運転をはじめ、本格稼働は7月を目指している。
同社が高度化するニーズに対応できる秘密は、ISICOの活性化ファンドのサポートを得て2008年度に取り組んだ技術開発にある。
その頃、同社はある自動車メーカーに売り上げの50%を依存していたが、リーマンショックとそれに続く世界的不況により、その発注がゼロになってしまった。そこで、森本社長は仕事がなくなったのを逆手に取り、将来を見越して余った時間を技術のレベルアップに充てることにした。
当時、同社で扱っていた金属線は、髪の毛とほぼ同じ太さの100ミクロンと50ミクロンだけだった。専門メーカーとしてより難度の高い注文を獲得するには、対応できる金属線を細くするしかないと考えた森本社長が目指したのは、耐久性が高く、機能性に優れた35ミクロンの金属線を加工できる技術の確立だった。
金網は縦横の金属線にかける張力によって仕上がりが変わる。金属線が切れるか切れないかくらいの張力をかければ、金属線の表面は滑らかになる。ただ、細ければ細いほど切れやすいため、絶妙な張力を機械で安定して維持するのが難しく、さまざまな独自の工夫によって35ミクロンの金属線を織れるようになるまでには5年間を要した。
さらに、2012年度からは、再びISICOの活性化ファンドを利用し、太陽電池用電極印刷資材の金網の開発を目的に16ミクロンという国内でも最も細いクラスの極細線による金網製造に挑戦した。現在はさらに技術に磨きをかけ、13ミクロンの金属線でも加工が可能だ。
10ミクロン台の金網は、外注すると高くつくため、大手メーカーでは内製化を進めている。とはいえ、万一、社内の生産ラインが止まった時のリスクを回避するため、生産技術を持つ森本金網製作所と業務提携を結ぶ企業もあり、同社の技術力の高さがうかがえる。
細い金属線の加工にとどまらず、幅広い技術を有する点も同社の強みだ。例えば、100ミクロンの金属線を使った金網は一般的に単価が低いが、エンドユーザーの要望に合わせて金網の硬さや柔らかさを調整できるので、高い単価での取引が可能となっている。
また、磁性を持ったステンレス鋼を織ることができるのは国内では同社だけである。この材料は、張力が釣り合うベストなポイントの幅が狭く、そこに合わせるには長年の経験がものを言う。普段から金属線に触れ、データを数値化し、技術に見合った設備投資をすることが、困難な加工を可能にするのだ。
スクリーンメッシュを製造している企業が減少していることから、同社では年々、16~35ミクロンの金属線の仕事が増え、現在は50ミクロン以下の売り上げが同社の70%を占めるまでになった。今後も金網の需要を積極的に取り込もうと考え、10年後をめどに織機を50台に増やす計画だ。
同社ではホームページを持たず、一切営業をしていない。それでも国内有数の技術力を誇っていることから、口コミだけで売り上げは徐々に伸びており、森本社長は「従業員一人当たりの年間加工高を3年間で25%アップし、着実に成長の階段を上っていきたい」と話している。
企業名 | (有)森本金網製作所 |
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創業・設立 | 創業 1973年10月 |
事業内容 | ステンレスやレアメタルを使った金網の製造加工 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.104 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.104より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.104 |