本文
後継者問題に悩む中小企業・小規模企業のニーズに応えるため、ISICOでは円滑な事業承継をサポートしています。12月19日には県地場産業振興センターで土井公認会計士事務所の土井敏哉氏を講師に招き、「バトンを渡すタイミング~手遅れにならないために~」と題した事業承継セミナーと個別相談会を開催しました。ここではその講演要旨を紹介します。
事業承継は一般的に下図のような流れで進みます。中でも大切なのは早めに課題を見つけて解決することです。そこで今回のセミナーではこの中でも特に親族に事業承継する際の課題に焦点を当てて説明します。
事業承継における課題は大きく二つに分けられます。一つは「理想と現実のギャップ」にあります。私は事業承継後にますます事業が発展すること、後継者が経営権を100%引き継ぐことが理想的な事業承継だと考えています。
事業の発展を達成するためには、後継者の育成、後継者のブレーンとなる人材の育成・発掘、熟練従業員の技術を受け継ぐ人材の育成、経理や総務といった間接部門を引き継ぐ人材の育成などが課題になるでしょう。
また、経営面で重要なのが、後継者が経営上の意思決定をできる体制づくりです。そのためには後継者が経営権を100%引き継ぐことが大切です。株式会社であれば後継者が株式を100%取得すること、個人事業主であれば後継者が店舗や土地などの事業用資産をすべて取得することが理想的です。
事業承継におけるもう一つの課題は「理想と現実のギャップを埋める際に生じるさまざまな障害」です。
例えば、後継者が株式を100%取得するには買い取るための資金が必要になります。自社の株式の総額は貸借対照表の純資産の合計金額とほぼ同じですから、一度確認してみてください。会社が所有する土地や投資有価証券、保険積立金に大きな含み益があれば、株価もその分膨らむので注意が必要です。
株式の移転について少し詳しく説明しておきます。株式を移転するには贈与、譲渡、相続といった方法があります。贈与する場合、ネックになるのは贈与税です。仮に株式の総額が5,000万円であれば、その約41%に当たる約2,050万円の贈与税がかかりますから、現実的とは言えないでしょう。どうしても贈与したい場合は、1人当たり年間110万円までの贈与であれば非課税になる制度を利用して、毎年少しずつ長期間かけて贈与する「歴年贈与」という方法を検討してください。
株式を譲渡する場合は後継者に買取資金が必要になる上、渡した側は所得税を払わなければいけません。また、相続する場合には相続税がかかります。相続税は贈与税に比べれば安いとはいえ、遺言などがなければ他の家族との遺産分割協議が必要になります。
株式の移転は会社の業績が良くて純資産が大きいほど、問題も大きくなります。必ず顧問税理士に相談するようにしてください。
役員借入金がある場合も障害になります。例えば、社長による1億円の役員借入金があり、大きな債務超過を抱え、純資産がマイナスの会社があったとします。役員借入金は社長個人から見れば会社への貸付金ですから、財産と言えます。純資産がいくらマイナスでも社長が持っている自社株の評価額は0円で、マイナスになるわけではないため、社長の財産を家族が相続しようとすると相続税が大きくなるリスクがあるというわけです。
もしも役員借入金がある場合は会計事務所に相談して早めに減らすようにしてください。もちろん、業績が良ければ、利益の中から返していけばよいのですが、それが難しい場合も多々あります。そんなときによく使われるのは債権放棄という方法です。ただ、この際、会社には債務免除益が発生し、法人税がかかりますから安易に選べる方法とは言えません。
以前は借入金をそのまま資本金に振り替える方法もありました。しかし、法改正によって現在では法人税がかかるようになっています。一筋縄ではいかない問題ですので、もし役員借入金があるならば早急に対処してほしいと思います。
他の家族から納得を得ることも障害の一つです。理想は後継者が株式や事業用資産を100%引き継ぐことです。とはいえ、「後継者だけが会社をもらってずるい」あるいは「他に資産がないなら、せめて株式がほしい」と分割して相続せざるを得ないケースも多々あります。
また、「会社に対する貸付金は、家族みんなで分けるべき」という意見が出ることもあります。経営するために欠かせない役員借入金でも、家族から返済を求められれば、法律上、返さざるを得ませんので注意が必要です。
このように事業承継にはさまざまな課題が付きものです。こうした課題を明確にするためにぜひ作成してほしいのが事業承継計画表です。計画表といっても難しく考える必要はありません。まずは現社長と後継者の年齢、引き継ぐ時期を記入するだけで構いません。これだけでもほとんどの経営者には今後取り組むべき課題が見えてくると思います。後は思いつくままに課題を書き込み、支援機関に相談してください。
相談する際、ISICOのような支援機関にはなるべく早い段階から関わってもらうとよいでしょう。第三者に入ってもらう方が後継者との対話がスムーズに進みます。また、事業承継を数多く扱っているので、さまざまなノウハウを持ち、的確なアドバイスが得られます。
株式や事業資産の移転については金融機関に相談しましょう。金融機関を巻き込むことには後継者に資金調達のノウハウを伝授する目的も含まれます。株価や税金の相談については会計事務所に相談し、弁護士が必要なときはISICOの専門家派遣制度や無料相談会の利用をおすすめします。
課題を解決する鍵となるのは対話です。後継者はもちろん、役員・従業員、取引先、家族、専門家と十分に対話しながら、事業承継を進めてください。
企業名 | 公益財団法人 石川県産業創出支援機構 |
---|---|
創業・設立 | 設立 1999年4月1日 |
事業内容 | 新産業創出のための総合的支援、産学・産業間のコーディネート機関 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.104 |
---|---|
備考 | 情報誌「ISICO」vol.104より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.104 |