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北野陶寿堂がリリースした九谷焼の新ブランド「ハレクタニ」の売れ行きが好調だ。従来の九谷焼にはなかった形状とシンプルでかわいらしいデザインが好評を博し、インテリアショップや雑貨店などこれまでと異なる販売チャンネルを開拓した。さらに、国内の人気が飛び火し、海外市場も切り開くなど、同社をけん引する看板ブランドとして成長を続けている。
「ハレクタニ」は、プレートや取り皿、豆皿、カップセットなどのデザイン性を統一して展開する、北野陶寿堂にとって初の自社ブランドとなる九谷焼の器である。
「ハレクタニ」の特徴は、現代的なデザインと形状にある。九谷焼と言えば、鮮やかな九谷五彩が印象的だが、「ハレクタニ」は色を2~3種しか使わない商品もあり、色味もややあっさり目。ネコや魚、鳥などの絵柄は、シンプルなデザインだが不思議とかわいらしさを感じる。
形状に特徴があるのは、主力となるプレート皿だ。ネコや魚の絵柄に合わせて、その耳や尾ひれを突起で表し、鳥であれば曲線でその形を表現している。
こうした従来の九谷焼になかった、シンプルでかわいらしいデザインや形状が好評を博し、「ハレクタニ」は全国の雑貨店やインテリアショップ、ネットショップで取り扱われるようになり、販売から2年もたたずに、同社の売り上げの10%強を占める看板ブランドに成長した。
「自社ブランドを立ち上げたのは、新しいマーケットを開拓するには、新しい商品が必要になると考えたから」。そう話すのは、同社の北野広記社長である。
同社が新市場を目指したのは、既存の市場が縮小傾向にあるからだ。かつては、引き出物や贈答品に伝統的なデザインの九谷焼がよく用いられたが、ライフスタイルが変化し、そうした購買行動は減少している。同社の主要取引先である百貨店や和食器店における普段使いの器の売れ行きも芳しいとは言えない状況だ。
一方、成長を続けているのが雑貨店やインテリアショップだ。近年は有名アパレルブランドがショップをプロデュースし、トレンドに敏感な20~40代の消費者は、自分のお気に入りアイテムを求めて訪れる。
「ハレクタニ」は、こうした雑貨店・インテリアショップ市場で販路を開拓するため、そのユーザー層に的を絞って開発したブランドなのである。
新ブランドの開発にあたっては、ISICOの活性化ファンドを活用した。北野社長のブランドコンセプトは明確で、「普段使いしたくなる、日常に入り込むようなかわいいデザイン」である。
同社では、このコンセプトを形にするため、これまでの九谷焼とは異なる手法を取った。新ブランドのデザインを、陶器などの生活雑貨のデザインにノウハウを持つ東京のグラフィックデザイン会社に依頼したのである。
九谷焼のデザインは絵付け作家が手掛けるのが慣例だが、北野社長は「女性に刺さるかわいらしさがあり、男性にも受け入れられる。そんな今までにない商品を作り上げるには、これまでと違うやり方でなければという思いもあった」と振り返る。
「ハレクタニ」と並行して、同社は器を扱わない雑貨店向けのアイテムも開発した。それが「九谷ハブラシスタンド」である。「ハレクタニ」のデザインのほか、こちらは選ぶ楽しさを重視し、30人以上の地元の絵付け作家に依頼して100種ものデザインを用意した。
「ハレクタニ」では、販路開拓を兼ねたプロモーションでも、これまでの九谷焼とは違う手法を採用している。数千人から数万人のフォロワーを持つインスタグラマーやブロガーに“アンバサダー(広報大使)”になってもらい、彼らに「ハレクタニ」を取り上げてもらったのだ。
北野社長がソーシャルメディアでの発信に力を入れる理由は二つある。一つは、ターゲットとするユーザー層がネットでの情報収集を欠かさない世代であるため。そしてもう一つは、今やショップや卸業者のバイヤーも新商品をインスタグラムやブログで探すのが当たり前になっているためだ。
実際、北野社長の思惑通り、ソーシャルメディアでの露出が増えると、アンバサダーにシェア(※)する形で「ハレクタニ」の購入を報告する投稿も増えていった。同時に、インスタグラムを見て問い合わせてくるバイヤーも急増し、中には、若者向けの店作りを進める百貨店や和食器店もあった。
※他人の投稿を引用して投稿する機能。SNSで情報が一気に拡散する要因となっている。
ソーシャルメディアでの情報発信は、予想外の展開ももたらした。中国や台湾、韓国のバイヤーからも問い合わせが来るようになったのだ。
韓国の商社が代理店契約を申し込んできたのも韓国国内のインスタグラムで「ハレクタニ」の商品を見たことがきっかけだった。
「市場が見えていたし、マーケットインの発想で開発したので、新ブランドはそれなりに売れると思っていた。しかし、海外での反響はまったくの予想外」と北野社長は驚きを隠さない。現在、「ハレクタニ」の売り上げは国内と海外でほぼ半々だが、中台韓からの引き合いは多く、今後は海外比率が高くなる見込みだ。
とはいえ、北野陶寿堂がこれから力を入れるのは、伸び代の大きい海外ではなく、国内市場だという。「日本でのブランド認知はまだまだ。国内のファンが増えれば、アジアでのブランド力も高まるはず。もっといろいろなプロモーションも試してみたい」と話す北野社長。「ハレクタニ」がこれからどのように広がっていくのか、今後の展開に期待したい。
企業名 | 株式会社 北野陶寿堂 |
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創業・設立 | 設立 1976年5月 |
事業内容 | 九谷焼の製造・卸・販売 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.107 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.107より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.107 |