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ISICOと連携して県内企業の皆さんをサポートする支援機関や研究機関などをご紹介します。
業務プロセスの課題を解決するため、あるいは製品やサービスをより優れたものにするため、IoT(※)の活用を検討する企業が増えている。ISICOでも、こうした企業を支援するため、研修やセミナーを開催しており、講師の一人を務めるのが北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)知識科学系の内平直志教授だ。県内外のさまざまな事例を研究し、IoTによるイノベーションを実現するためのノウハウを提案する内平教授の研究室を訪ねた。
(※)IoT:Internet of Thingsの略。モノや人からインターネットを通じてデータを収集し、活用する仕組み。
内平教授は東芝に31年間勤務し、主にソフトウエアの生産技術や人工知能(AI)などの研究開発を手がけたほか、マネジャーとして研究成果の事業化に携わってきた。
2013年にJAISTの教授に就任し、現在は大きく四つのテーマで研究に取り組んでいる。その一つが「IoT時代のイノベーション・マネジメント」で、県内外の企業の成功事例や失敗事例を分析し、商機をつかむためにはどのようにIoTを活用すればよいのか、またどうすればIoT導入時の困難を克服できるのかといった点について知識の体系化を試みる。研究成果の一端は昨年、『戦略的IoTマネジメント』( ミネルヴァ書房刊)として出版されているので、関心のある人にはぜひ一読を勧めたい。
二つ目は、温度や湿度などを測定する物理センサーに加え、人間の持つ五感をセンサーとして活用する研究だ。具体的には、内平教授が産学連携プロジェクトで開発した「音声つぶやきシステム」を用いて音声データとして収集した作業者の気づきを、物理センサーのデータと一体的に管理・分析・活用し、業務の効率化や品質向上につなげる取り組みで、農業法人などと共同研究を進めている。
三つ目は、製造業において、顧客のニーズに応え、製品にサービスを付加するための手法についての研究で、これにもIoTが重要な役割を果たす。
このほか、東芝時代の経験を生かし、研究開発プロジェクトや情報システム開発プロジェクトの失敗を防止し、成功確率を高めるための知識継承もテーマに掲げ、経済のグローバル化に合わせ、インドをはじめ海外の大学・企業とも連携して研究を進めている。
内平教授は「IoTを活用するチャンスはさまざまな業種・業界、中小・中堅企業に開かれている」と話し、企業の実際の取り組みが研究材料になるため、県内企業からの相談にも意欲的に対応している。
ISICOでは「いしかわサイエンスパークオフィス」(所在地:能美市旭台2-1 石川ハイテク交流センター内/TEL:0761-51-0122)が橋渡し役を担うので、内平教授と接点を持ちたい企業は気軽に連絡してほしい。
IoTの活用は、企業にとって成長へのチャンスと言える。とはいえ、多くの中小企業にとってはまだまだなじみが薄く、導入も本格化していないのが実情だ。そこで、IoTで得られるメリットや導入する上でのポイントについて内平教授に聞いた。
―そもそもIoTとは何ですか。
内平●IoTは「モノのインターネット」と訳されるため、生産設備をはじめ現実空間のモノがインターネットにつながっている状態をイメージするかもしれませんが、これは狭義のIoTに過ぎません。現在では、モノの情報を、ネットを通じてクラウドに集め、AIを使って分析や最適化などの情報処理を施し、その結果をモノや人にフィードバックして活用する一連の仕組みを指しています。
―なぜ普及が進んでいるのですか。
内平●コンピュータやAI、アプリケーション、センサー、通信といったIoTに必要な機器やソフトウエア、技術が成熟化し、コストが下がったことが普及を後押ししています。また、ネットを介して世界規模で知識の共有が進んだこと、経営者の意識が変化したことも大きな要因と言えます。
―企業にIoTを導入すると、どのような効果が得られるのですか。
内平●大きく二つが挙げられます。一つは自社の業務プロセスにおける課題の解決です。例えば、各種センサーを使って生産現場のデータを収集、分析し、その結果を用いて機器の制御を最適化すれば、効率や品質の向上につながります。もう一つはIoT化によって、製品やサービスをより優れたものにし、新たな価値を生み出せることです。例えば、あるジェットエンジンメーカーでは、IoTによって故障の予兆をとらえて早めに対策し、整備にかかるコストや時間を削減し、顧客満足度を向上させています。
―IoTの導入を成功させるポイントは何ですか。
内平●まずは、解決したい課題や目指すビジョンを明確にすることが重要です。IoTはあくまでもツールであり、導入そのものを目的としないように注意してください。また、経営幹部自身がIoTについてしっかりと理解し、強いリーダーシップを発揮して、徹底的に進めることが成果につながります。
IoTの導入に必要なツールやプラットフォームは安価で利用できるようになっているので、それらを活用すれば、低予算で自ら最適なシステムを開発することも可能です。その場合は、いきなり工場全体で始めず、最初に小さな仕組みを作り、得られた結果をもとに改良を施し、適用範囲を広げるようにしてください。自社用に開発したシステムを、その後他社に販売し、利益を得ている企業もあります。
―経営幹部がIoTに詳しくない場合はどうすればよいのでしょうか。
内平●その場合は、外部のベンダーとの協力が不可欠です。ただし、その場合も決して任せきりにするのではなく、業務フローや課題について、十分に意思疎通を図り、自社がイニシアチブを取って開発を進めるように努めてください。
一方で、IoTの活用を促進する企業風土づくりも欠かせません。そのためにはISICOなどが主催する研修やセミナーも存分に活用すべきです。企業の中には研修やセミナーに若手社員だけを出席させる場合が多いのですが、風土をつくるためには、それでは不十分です。経営トップも含め、さまざまな階層の人が参加するようにしてほしいと思います。
国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 内平研究室
能美市旭台 1-1
TEL. 0761-51-1783
https://www.jaist.ac.jp/~uchihira/
企業名 | 国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 |
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創業・設立 | |
事業内容 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.110 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.110より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.110 |