新型コロナウイルスの感染拡大によって、この春、経済活動に急ブレーキがかかった。さまざまな制限が解除された6月以降はやや持ち直したとはいえ、収束するにはまだ時間がかかるため、企業にとっては今後、ウイルスとの共生を前提に、経営環境の変化に応じて事業モデルや仕事のやり方を見直していくことが必要だ。そこで今回の特集では、この苦難を乗り切って次の成長につなげようと知恵を絞る県内企業4社の取り組みを紹介する。
オンライン会議アプリを新たなサービスに活用した例もある。それがオーストラリア人シェフのベンジャミン・フラットさん(以下、ベンさん)と女将の船下智香子さん夫妻が営む民宿ふらっとだ。1日5組限定の小さな宿は、二人の温かなもてなしと能登の素材をふんだんに使ったイタリアンディナーが人気で、日本海と立山連峰を一望する高台に建つ絶好のロケーションや開放感たっぷりの露天風呂も魅力だ。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、4月6日から約2カ月にわたって休業を余儀なくされたが、この間に取り組み始めた「Zoom cooking(ズームクッキング)」が好評を博している。これはオンライン会議アプリ「Zoom」でふらっとと参加者の自宅をつなぎ、シェフや女将と一緒に調理や食事を楽しんでもらおうという企画だ。参加者には前日までに2名分の食材と料理に合わせて選んだワインが送られ、当日はベンさんが調理する手元を智香子さんが撮影しながら解説し、参加者はその様子を参考に料理を作る。ちなみに初回のメニューは「わらびと自家製からすみのパスタ」だった。 5月30日から週1回ペースで開催し、毎回定員いっぱいとなる6、7組が参加する。常連客はもちろん、ふらっとに宿泊したことのない参加者もいて、年齢層も大学生から70代まで幅広い。全国各地から申し込みがあり、横浜と滋賀に離れて住んでいる家族がそれぞれの住まいから一緒に参加したケースもあった。参加者からは「とてもおいしくおしゃべりも楽しかった」「やっぱりイベントに飢えていたんだと実感した」「今度は能登に行きたい」など、喜びの声が寄せられ、中には連続で参加する人もいる。
ふらっとでは普段、コンカイワシや自家製いしりで野菜を漬けたべん漬けなど、この土地ならではの味覚を提供している。しかし、せっかく仕込んでおいた食材もコロナによって行き場を失ってしまい、日頃山菜などを仕入れている地元の生産者に対しても心苦しく思っていた。そんなとき、常連客同士のオンライン飲み会に招待されコミュニケーションを取ったり、「ベンさんの料理を食べたい」「自宅にこもりきりでストレスがたまる」といった声を聞いたりするうちに浮かんできたのがZoom cookingの企画だった。
食材はもちろん、ベンさんが使っている自家製の調味料なども、すべてきっちりと計量した上で発送するので、自宅にいながら、シェフと同じ味を作って食べられる。参加者はあらかじめ調理の工程を撮影し、10分ほどに編集した動画を見て予習できる上、当日も智香子さんが画面越しに質問に答え、参加者の進み具合を確認しながら進めるので、料理初心者でも安心だ。
また、Zoomの使用に不安な人に対応するため、智香子さんは開始の30分前からスタンバイし、うまくつながらない場合は電話でサポートする。
ふらっとでは6月8日から3密を避けるため、1日2組限定で営業を再開した。これを受け、Zoom cookingは今後、定休日である水曜夜の開催を予定する。祭りの際に家を訪れる客にごちそうを振る舞う能登の風習「よばれ」をオンライン上で開催し、そこで伝統的な発酵食「ひねずし」を味わってもらう「Zoomよばれ」も企画中だ。
また、金土日は民宿の夕食後の時間を使って、前もって宅配したワインやチーズ、おつまみを味わいながら、各地の参加者とオンラインで交流する「サパークラブ」の開催も計画する。サパークラブでは他店のシェフやグラスなどの専門家をゲストに呼ぶことも考えている。
「コロナとの戦いは長期戦。そんな中でも安全にお客さんとつながることができ、喜んでもらえる企画を考えたい」と話す智香子さん。ベンさんも「創造力があれば、可能性は無限大に広がる」と話し、楽しみながら今の状況を乗り越えようと力を合わせている。
企業名 | 民宿ふらっと |
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創業・設立 | 創業 1997年7月 |
事業内容 | 民宿経営 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.111 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.111より抜粋 |
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掲載号 | vol.111 |