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採用活動や販促活動などにおけるウェブマーケティングの重要性が高まっている。新型コロナウイルスの感染拡大によって、対面してPRする機会が減るなか、その流れはますます加速するに違いない。そこで、今回の特集では動画やクラウドファンディングサイトなど、インターネットを上手に活用して成果を挙げている2社にスポットを当てた。
多様な樹脂素材を使って、電気・工業部品、日用雑貨類など、幅広い製品を成形、加工する石川樹脂工業では、クラウドファンディングサイト「Makuake(マクアケ)」で、新ブランド「ARAS(エイラス)」の食器を先行販売し、約3,260万円を売り上げた。
ARASは「強く、美しい、カタチ。」をコンセプトにした食器ブランドである。食や器、ライフスタイルにこだわりを持つ人が普段使いできる食器を目指し、使いやすく、料理がよりおいしくなるよう、素材やデザインに工夫を凝らした。
今年4月から5月にかけて行った第一弾プロジェクトでは2種類の大皿とカトラリーを販売し、約1,480人のサポーターが約1,550万円を購入した。7月から8月の第2弾プロジェクトでは茶碗や汁椀、箸、中皿を出品し、約1,280人のサポーターが約1,710万円を購入した。
「世の中に出回っていない新しいものを探している人がよく見てくれるのがクラウドファンディングサイトのいいところだ」。新ブランドの立ち上げにMakuakeを活用した理由をそう話すのはプロジェクトを主導する石川勤専務で、想定以上の成果に大きな手応えを感じている。
クラウドファンディングサイトを活用し、成功を収めた要因として石川専務が挙げるのが、アプローチする顧客像をしっかりと設定したことだ。どのような価値観やライフスタイルの消費者が自社の商品を購入してくれるのかをイメージすれば、より消費者の心に響くメッセージや写真を考えやすくなる。また、社内はもちろん、カメラマンやコピーライター、フードコーディネーターといった外部のプロジェクトメンバーと議論する際も、それぞれの好みや都合でなく、消費者の視点で意思決定が可能だ。もちろん、商品やパッケージのブラッシュアップにも役立つ。
同社では以前、別の商品を顧客像が不明瞭のままクラウドファンディングサイトで販売したところ、売り上げが伸び悩んだことあがった。今回はその経験を踏まえ、詳細に顧客像を設定し、サイトの内容にも反映した。
例えば、ARASがターゲットとするのは毎日の食事や器にもこだわりたい消費者である。そのため、サイトの閲覧者を引き込むためのキービジュアルは、作家ものの器を個展で買い求めるような目の肥えた人でも立ち止まってもらえるよう、あえて食卓ではなく海を背景にして違和感を演出した。
また、写真共有アプリ「インスタグラム」の活用にも力を入れた。具体的にはARASのコンセプトにマッチしたインスタグラマー約50人に商品を提供し、器に盛り付けた料理などの画像を紹介してもらうことで認知を広げた。
和食器をリリースした第2弾プロジェクトでは、新たな試みとして金沢で人気の日本料理店「銭屋」とコラボレーション。主人である高木慎一朗さんから寄せられた商品についてのコメントを掲載したほか、同店特製のお茶漬けやみそ漬けをセットにした商品も数量限定で企画し、完売した。
もちろん、商品の魅力も成功要因の一つである。樹脂とガラス素材を混ぜ合わせることで、割れる心配がなく、傷も付きにくい上、手入れが簡単で、温かいものも冷たいものも料理の温度を保ってくれる新素材を開発。量産品でありながら表面に微妙なむらが現れ、一つとして同じものがない点も特長だ。
美しさと機能性を兼ね備えたデザインも秀逸で、汁椀であれば、口当たりが柔らかく飲みやすいように飲み口の角度や厚みを調整し、中皿には数種類のおかずを盛り付けた際に立体感を演出できるようウェーブ状の起伏を付けるなど、料理をおいしく食べられるよう工夫されている。
デザインを担当したのは、金沢を拠点に活動するクリエイター集団「secca」で、最先端の技術と伝統的な技術を組み合わせた手法により、これまでにない新たな表現を実現している。
ARASについてはMakuakeで受注した分を発送後、自社のオンラインショップや大手ECサイトを通じて販売するほか、第3弾プロジェクトも企画する。
ところで、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、同社が外食産業向けに販売している食器などの売り上げは落ち込んだが、その分をカバーするように伸びているのが、ARASをはじめECサイトを通じた販売だ。ECサイトによる売り上げは昨年までは全体の1~2割に過ぎなかったが、この夏は5割にまで急増した。
「BtoC、BtoBを問わず、あらゆる商材がもはやインターネットと切り離せなくなる」と今後を見通すのは石川専務である。というのもウィズコロナの時代を生き残る飲食店や小売店はネットをうまく活用したところであり、そういった会社ほど、対面営業でなく、ECサイトで業務に必要となる資材を購入すると考えられるからだ。
そのため、同社でも今後、ECサイトの活用に一層力を注ぐ方針を掲げる。石川専務は、星の数ほどある商品の中から消費者に見つけてもらい、買ってもらうために必要な販売ノウハウを蓄積すると同時に、「工業用のネジ1本から販売できるようにECサイトで販売する商品ラインアップを広げていきたい」と意欲を燃やしている。
企業名 | 石川樹脂工業 株式会社 |
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創業・設立 | 設立 1965年4月 |
事業内容 | 樹脂製の食器雑貨、工業部品、仏具、その他OEM商品の企画、製造、販売 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.112 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.112より抜粋 |
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掲載号 | vol.112 |