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専門家のアドバイスで事業承継が前進 就任後は成長目指し、デジタル化を推進 ~(株)金沢歯科技研

印刷ページ表示 更新日:2021年3月29日更新

事業承継事例

前社長が高齢を理由に10年前に引き継ぎを打診

2019年8月に事業を引き継いだ小田垣亨社長の写真 金沢歯科技研では、歯科治療に際して必要となる詰め物や差し歯、義歯、矯正装置といった補綴物(ほてつぶつ)を医師の依頼を受けてオーダーメードする歯科技工所である。製造や加工を手掛けるのは、国家資格を持つ歯科技工士だ。業界では歯科技工士が5人未満の事業所が大多数を占める中、同社には23人が在籍し、地方都市としては比較的大きな規模で運営されている。
 1973年の創業以来、歯科学会への参加のほか、取引先である金沢大学附属病院をはじめ、材料・機械メーカー、開業歯科医との幅広いネットワークを活用しながら情報収集や研究活動に取り組み、磨き上げてきた熟練の技術が最大の強みだ。
 そんな同社で事業承継の兆しが見え始めたのは今から約10年前のことだった。創業メンバーの1人であり、長らく社長を務めてきた川尻 汎一(かわしりはんいち)さん(現会長)が年齢を理由にそろそろ経営のバトンを渡したいとの意向を示したのである。川尻さんは当時、74歳だった。後継者候補として、引き継ぎを打診されたのが現在の社長で、当時48歳の小田垣 享(おだがき とおる)さんだった。

親族を差し置いての社長就任に二の足

 小田垣さんは京都府出身で大阪の歯科技工士学校を卒業後、1985年に入社し、社長就任を打診された当時は技術部門の責任者である取締役技工部長を務めていた。技術面での能力は申し分ないとはいえ、小田垣さんは川尻さんの言葉に即答することはできなかった。
 理由はいくつかあった。一つは企業のオーナーが親族ではなく、第三者に会社を譲ることについての疑問だった。同社には川尻さんの娘婿も在籍していた。キャリアで言えば、小田垣さんの方が随分と長いとはいえ、自分が継ぐことで後々禍根を残すようなことになるのではという懸念が消えなかった。
歯科補綴物を製造する歯科技工士の写真その1。 株式を購入するための資金の工面も重い課題だった。
 また、小田垣さんはもちろん、川尻さんにとっても事業承継は初めての取り組みであり、具体的にどのように進めればよいか分からなかったことも理由の一つだった。歯科技工士のキャリア形成は昔ながらの職人の徒弟制度のようなもので、引き継ぎのプロセスにおいて小田垣さんが師匠である川尻さんと腹を割って対等に話し合うのが難しく感じたことも二の足を踏んだ理由だった。さらに、会社を辞め、独立を検討していたことも小田垣さんを逡巡させた。

第三者が入ることで意見の調整がスムーズに

 その後、膠着(こうちゃく)状態のまま年月が過ぎ、転機が訪れたのは2年前のことだった。小田垣さんが後で詳しく述べる歯科技工のデジタル化に向け、ものづくり補助金の申請について相談するためISICOを訪れた際、事情を聞いた職員が支援を提案したのだ。
 小田垣さんがISICOの支援を受けたいと川尻さんに話すと「おれとお前で決めればいい。第三者に入ってもらう必要はない」といったんは反対されたが、客観的な目で見てもらい、計画的に進めるためだからと説得。その後、専門家のサポートを受けながら事業承継計画書を策定した上で、懸案事項を一つずつクリアしながら約1年をかけてさまざまな課題を解決し、2019年8月にトップを交代した。
歯科補綴物を製造する歯科技工士の写真その2。 小田垣さんの心に引っかかっていた川尻さんの娘婿との関係については、自身はあくまでも中継ぎの社長であり、いずれ社長の座をオーナー家に返す方向で考えを整理した。株式については元々保有していた10%分に加え、既に退任していた創業メンバーの1人の厚意で20%分の譲渡を受け、持ち株比率を30%にまで高めることができた。
 小田垣さんは「第三者である専門家に入ってもらうことで、客観的に意見を聞いてもらい、プロの目線で調整してもらうことができて本当に助かった。計画書の策定によって取り組むべき課題とその進み具合が明確になり、計画的に事業承継を進めることができた」と振り返る。

デジタル技術を導入し効率化にチャレンジ

 小田垣さんが新社長として現在、事業の発展に向け、注力するのが先ほども触れた歯科技工のデジタル化である。従来、差し歯や入れ歯などの補綴物は、経験を積んだ歯科技工士が石こうの歯型をもとに手作業で製造してきた。一方、同社がチャレンジしているのは、高精度光学カメラで撮影した患者の口腔内の画像をもとに3次元CAD/CAMで歯をデザインし、そのデータを使って切削加工機や3Dプリンターによって補綴物を作る方法だ。技術の確立を目指し、同社では必要な機材をものづくり補助金で導入して研究開発を続けている。
 小田垣さんがデジタル化を進める背景には、より質の高い補綴物の製造はもちろんのこと、人手不足への対策がある。歯科技工士にはきつい、汚いといったイメージがあるほか、補綴物の種類ごとに工程や求められる技術が異なるため、一人前になるまでに時間がかることから、業界では人手不足が深刻化している。これに対応するのが、ものづくり補助金を活用して導入した切削加工機や3Dプリンタなどの写真。人手不足や経験不足を補ってくれるデジタル技術というわけだ。また、作業が効率化されれば、働き方改革が進み、社員の定着率アップにもつながる。
 このほか、営業活動での協力や高額な設備の共同保有、技術交流などを目的として、地元の歯科技工所と業務提携を結ぼうと協議を進めるなど、小田垣さんは「自分が社長を務めているうちに、できるだけ企業が成長できる体制を整え、次の代にバトンタッチしたい」と、意欲的に新たな一手を繰り出している。

企業情報

企業名 株式会社 金沢歯科技研
創業・設立 設立 1973年4月
事業内容 歯科補綴物( 詰め物、差し歯、義歯、矯正装置)の製造、加工、販売

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関連URL 情報誌ISICO vol.116
備考 情報誌「ISICO」vol.116より抜粋
添付ファイル
掲載号 vol.116


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