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都市部の大企業を中心に、働き方改革の一環として副業を認める企業が増えている。一方で、外部の優秀な人材を求めるニーズも高まっており、副業人材と企業をつなぐマッチングサイトやサービスが増えるなど、副業しやすい環境も整いつつある。県内でも、自社にないスキルやノウハウを取り入れようと、副業人材を活用して新規事業やプロジェクトを立ち上げる動きが広がっている。副業人材の受け入れが、どのように企業の成長を後押ししているのか。2社の取り組みを紹介する。
貸し切り観光バスや高速バスを運行する丸一観光では、昨年から副業人材を活用し、ツアー企画やSNSによる情報発信の強化に取り組んでいる。
同社では2000年代の初め、多くの観光バス会社が外国人客を敬遠していた頃から、いち早く海外の旅行会社と連携したほか、能登と東京を結ぶ高速バスを開始するなど、パイオニア精神をもって積極策を打ち続け、事業を成長させてきた。
しかし、旅行業界に大きな打撃を与えたコロナ禍の影響で、大幅な売上ダウンを余儀なくされた。そんな中でも「下を向いていても仕方がない。今できることをやろうと」(木下恒喜常務)と、以前から課題と考えていた着地型ツアー(※)の企画を作成するにあたって協力を得たのが副業人材だった。
同社に副業人材の活用を提案したのは、七尾市のまちづくり会社「(株)御祓川(みそぎがわ)」である。
「地域の観光の担い手として、他社が実施していない新たな日帰りの少人数ツアーを作りたいと考えていたのですが、当社の旅行事業部は2人しかおらずマンパワーが不足しています。それに旅行業界に長く働いている人ではなく、自由な発想でツアーを考えてもらった方がとんがった企画ができるのではと考え、試してみることにしました」(木下常務)。
(※)旅行者が旅先の空港や駅から参加するツアー
人材の募集には、御祓川が地域パートナーとして参画するマッチングサイト「ふるさと兼業」を利用した。丸一観光が同サイトに求人情報を掲載したところ、20人以上から応募があり、オンライン面接を経て5人を採用した。いずれも東京や愛知など県外に在住しており、大手飲料メーカーに勤める会社員や農業を営む自営業者など、本職もさまざまである。共通するのは旅行好きなことと地域活性化に貢献したいという志だ。
5人は3カ月にわたって木下常務らとオンラインで意見交換を重ねながらツアーを検討し、丸一観光が出来上がった企画を買い取るかたちで報酬を支払った。
副業人材が企画した着地型ツアーは今後、ブラッシュアップし、新型コロナの感染状況を考慮した上で、催行を検討していく予定だ。
こうした取り組みに好感触を得た同社では、SNSの運用にも副業人材の力を借りている。採用には前回と同じマッチングサイトを利用し、3人の応募者の中から、広告代理店で勤務経験があり、大企業のSNSの運用で実績のあるフリーランスの人材と月額3万円の報酬で契約した。
「コロナ禍で仕事がない状況でも、感染対策を施したり、ラグジュアリーな新車両を開発したりと活動を続けていたので、何とかこうした情報を消費者に伝えたいと思っていました。企業としてフェイスブックページを開設しているのですが、多くのスタッフがSNSに詳しくなく、ほとんど更新できていない状況が続いていたので、詳しい人に助けてもらえればと採用を決めました」(木下常務)。
その後、木下常務と社内のSNS担当者が東京在住の副業人材と週1回、1時間ずつオンラインでミーティングを重ね、その週の投稿内容の振り返り、閲覧者の動向や反応の分析、次週の投稿内容の検討などを行っている。昨年12月以降、フェイスブックには開発中のバスや穴場の観光地、社員が飼っている猫、会社で育てている朝顔など、硬軟を織り交ぜた内容が投稿され、フォロワー数は半年間で約300人から800人を超えるまでに増えた。木下常務は「継続できていることが何よりの成果。将来の集客や採用に向けたファンづくりにもつながっています」と手応えを話す。
担当者が社内から新たなネタを集めるためのやりとりは、結果として社員間の情報共有につながり、投稿内容をきっかけに社内のコミュニケーションが活発化した。SNSの活用は社内にもプラスの効果を生んでいる。
当面の目標は自社のスタッフだけでフェイスブックをしっかりと運用できるようにすることだ。次の段階では、中断しているインスタグラムの運用についても副業人材のアドバイスを得ながら着手する考えだ。
「副業人材の知見を学ぶことがスタッフの成長にもなっています。新たに社員を採用したり、外注したりするのに比べ、コスト面からもメリットが大きいと感じています」と話す木下常務。大企業に比べて経営資源に乏しい中小企業が新たなチャレンジをする際には今後、心強い伴走者として、特定の技術やノウハウを持つ副業人材の活用が有力な選択肢となりそうだ。
企業名 | 株式会社 丸一観光 |
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創業・設立 | 設立 1974年5月 |
事業内容 | 観光バス・高速乗合バスの運行、旅行業務 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.117より抜粋 |
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掲載号 | vol.117 |