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創業から今年で138年を数える網善商店は漁網やロープなど漁業用資材を専門に扱う老舗商社だ。そんな同社が近年、新たにかぶらずしやスイーツなどの加工食品の製造販売に乗り出した。近い将来、金沢市内に自社店舗も構える計画で、2本目の事業の柱づくりが着々と進んでいる。
網善商店が昨年5月に発売したスイーツが「大納言ウィークエンド」だ。これはフランス産の発酵バターを練り込んで焼き上げたパウンドケーキである。開発のヒントとなったのは、週末に大切な人と食べるために作られるフランスの伝統的なお菓子だ。もともとはピスタチオをトッピングしたレモン風味のお菓子だが、同社の商品は甘く炊き上げた能登大納言小豆をトッピングしたほか、能美市産の国造(こくぞう)ゆずを使用し、和のテイストを取り入れた。砂糖の代わりに独自に作った甘酒を使っているのも特徴で、しつこくなく優しい甘さに仕上がっている。
JR金沢駅構内の金沢百番街にある菓子店「ル・コタンタン金沢」で販売し、売れ行きは好調だ。今年3月からは製造工程の見直しなどによって、冷凍品をストックしておくことも可能になった。同社5代目の宇野泰暢(やすのぶ)さんは「今後、観光客が増えた際の発注増にも対応しやすくなった」と笑顔を見せる。
この「大納言ウィークエンド」に先立ち、網善商店が手掛ける加工食品の第一弾となったのが「甘麹(あまこうじ)かぶら寿司」と「甘麹だいこん寿司」である。
これらは料理上手で知られた宇野さんの曾祖母から伝わる家庭の味を商品化したものだ。自社農場で栽培したカブラや大根に、同社が長年築いてきた水産ネットワークから仕入れたブリやニシンをはさみ、「甘麹」と名付けたたっぷりの甘酒に漬け込んで発酵させている。甘味料を一切使わず、発酵によって生み出されるまろやかな旨みと甘みが特徴だ。
2015年の冬からネットショップを中心に販売し、県内客はもちろん県外客からも「初めて食べる味」と好評だ。毎年注文してくれるリピーターもいる。そのおいしさは徐々に口コミで広がり、売り上げも着実に伸びている。
明治時代から漁業者向けに資材を販売する網善商店が、こうした加工食品の開発に乗り出した理由は二つある。一つは同社の取引先である漁業者を支援したいとの思いだ。
「魚は水揚げ量が多ければ価格が下がってしまいます。加工して付加価値を付けて販売できれば、漁業者の皆さんの収益力アップに貢献できるのではと考えました」(宇野さん)。
そしてもう一つは、将来を見据え、漁業資材と並ぶ新たな売り上げの柱を育てていきたいという思いである。
第一弾として商品化した甘麹かぶら寿司と甘麹だいこん寿司は、ISICOの活性化ファンド事業に採択され、パッケージやパンフレット、ホームページなど販促ツールを整備できたことが大きな後押しとなった。
その後、冬場だけでなく年間を通して提供できる商品の開発を目指す宇野さんが注目したのが独自製法で作る甘酒だった。
「甘酒は地元金沢に根付く発酵文化の一つです。甘酒を砂糖の代わりにしてスイーツを作ったり、塩麹を使うように甘酒で魚や肉を漬け込んだりすれば、おいしくて健康的な食品を食卓に届けられるのでは。そう考えて、甘酒を活用した商品開発に取り組み、大納言ウィークエンドが生まれました」(宇野さん)。
甘酒を活用した商品開発に向けては、「いしかわ大学連携インキュベータ(i-BIRD)」(野々市市)に入居。ISICOのチャレンジファンド事業を活用して試作品を開発し、菓子製造業とそうざい製造業の許可も取得した。
同社にとって個人向けに販売するB to Cは初めての試みだったが、宇野さんは「自社に不足しているノウハウは友人や知人の力を借りて、何とか前に進めることができた」と振り返る。
現在は漁業資材販売と並行して、加工食品の開発、製造にも力を注ぎ、甘麹プリンやホルモンの甘麹漬けなど、さまざまな商品の試作を続けている。
自社商品の販路を拡大するため、1、2年後には金沢市内で“麹キッチン”と名付けた店舗のオープンを目指すほか、水産加工会社と連携し、今まで以上に漁業者から加工を受注できる体制を整えていく計画だ。
「食品は誰もがお客様になり得るので、とても大きな可能性を感じています」。宇野さんはそう話し、現在約5%を占める加工食品の売り上げを将来的には50%にまで伸ばしていきたいと意欲を燃やしている。
企業名 | 網善商店 |
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創業・設立 | 創業 1883年 |
事業内容 | 漁業用資材の販売、加工食品の製造・販売 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.117より抜粋 |
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掲載号 | vol.117 |