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ISICOでは2007年から毎年、ビジネスプランコンテストを開催し、優秀な起業家の成長をサポートしている。厳しい審査を勝ち抜いた起業家がその後どのように成長したのか。2011年度のコンテストで優秀起業家賞に選ばれたウインズジャパンの片岡匡史社長の取り組みを紹介する
二輪レーサーとしても活動する片岡匡史社長は、ユーザー目線を取り入れたバイク用品を開発しようと2009年にウインズジャパンを設立した。その後、日差しを遮るインナーバイザー付きのヘルメットやあごを保護するフェイスガードをワンタッチで脱着できるヘルメットを日本で初めて開発し、ヒットさせた。
追随してくる他社に差を付けるため、2012年には炭素繊維強化樹脂(CFRP)で作ったヘルメットを発売。従来に比べて250g以上も軽量化し、新たなユーザーの獲得につなげた。2019年に市場に投入したガラス繊維強化樹脂(GFRP)製のモデルも強さと軽さを維持しながらCFRP製よりもリーズナブルな価格を実現し、人気を集めている。
ヘルメットのシールドの内側に貼り付け、寒い時期や雨天時の曇りを防ぐシートも好評だ。
今年は劇場版の公開を記念して、人気アニメ『エヴァンゲリオン』とコラボしたヘルメットを企画。直売分を2日で完売するなど話題となり、ブランドイメージと認知度のアップにつながった。
こうした革新的な商品開発が実を結び、業績はほぼ右肩上がりで伸び、売上高は創業時の約3倍にまで達している。
そんな片岡社長が現在、力を入れているのがセルロースナノファイバー(CNF)を使ったヘルメットの開発である。CNFとは木材から取り出したナノサイズの繊維状物質のこと。鉄と比べ、5分の1の軽さと5倍の強度を誇り、植物由来の環境への負荷が少ない次世代素材として注目されている。
CNFの活用を思い立った理由について、片岡社長は次のように話す。
「多くの人はヘルメットを3年に1回、あるいは5年に1回のサイクルで買い換えます。不要になったヘルメットは燃えないごみとして埋め立て処分されますが、これでは地中に残ってしまいますから、メーカーとしてもっと環境に優しいものを作れないかと考えていました。そんなとき、ニュースでCNFのことを知り、興味を持ったのです」。
CNFに詳しい専門家を探して片岡社長が相談したのがISICOだった。ISICOでは複合材料を研究し、環境省のプロジェクトで車のボンネットなどをCNFで製作した実績もある金沢工業大学バイオ・化学部応用化学科の吉村治教授と附木(つけぎ)貴行講師を紹介。2019年からウインズジャパンと金沢工大、大手繊維メーカーの3者による研究開発がスタートした。
CNFはナノサイズなので目に見えない大きさの物質だ。これをヘルメットとして成型するのは困難の連続だったが、試行錯誤の末にこの夏、待望の試作品ができ上がった。
「まずCNFを複雑に重ね合わせて紙のようにした上で、細長いテープのように裁断します。これによりをかけて作った糸を織物にします。織物に樹脂を含浸させた後、カットしてヘルメットの金型に貼り、熱と圧力をかけて固めます」。製造方法についてこう解説してくれたのはウインズジャパンの石川哲治技術部長だ。
CNFは高価なため、試作品ではマイクロサイズの繊維も混ぜて使用した。また、日本の厳しい安全規格をクリアするため、GFRPを含む多層構造とした。テストの結果は予想以上で、耐貫通性は既に規格を満たし、耐衝撃吸収性もあと一歩のところまで迫った。
今後はCNF製織物の織り方や素材の積層構成について引き続き研究を進め、3~5年後の商品化を目指す。現段階ではGFRPも用いているため、次のステップではCNFだけで作ったヘルメットの開発に取り組む予定だ。
これがゴールではない。片岡社長は「将来的にはヘルメットの製造時に必要となるプリプレグ(CNFの織物に樹脂を含ませたシート状の素材)を国内外のメーカーにも供給したい」と話し、CNFの普及と環境への負荷低減に一役買う姿勢を見せる。
附木講師は「大手企業と連携するよりも素早く商品化できるのが魅力。CNFをプリプレグとして供給できれば、例えば自転車のフレームなど、応用展開の可能性が大きく広がります」と期待を寄せる。
片岡社長が以前から進出を狙うヨーロッパ市場では環境対策への関心がひときわ高い。CNF製ヘルメットの完成が、同社のさらなる成長に向け、大きなターニングポイントとなるに違いない。
企業名 | 株式会社 ウインズジャパン |
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創業・設立 | 設立 2009年2月 |
事業内容 | バイク関連グッズの企画・開発・販売、コンチネンタルモーターサイクルタイヤの販売、ホテル経営 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.119 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.119より抜粋 |
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掲載号 | vol.119 |