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金沢市才田町で水稲やレンコンを生産するOneは今年3月、レンコンをすりおろしてキューブ状に成型した冷凍食品を発売した。調理の手間が省けて便利と好評で、「プレミアム石川ブランド製品」への認定を弾みに、県外へも販路を広げていく計画だ。
Oneが開発した商品はその名も「冷凍すりおろしれんこんキューブ」。同社が土づくりにこだわり、農薬や化学肥料を使わずに育てた「金澤美人れんこん」をすりおろし、キューブ状に凍らせた商品だ。添加物は一切使用していない。
面倒なすりおろしや裏ごしの作業がいらず、忙しいときでもすぐに使える上、小分けされていて、使いたいときに好きな量だけ使える点が特長だ。レンコンの旬は秋から冬にかけてだが、長期保存が可能なため、季節を問わず手軽に食べられる。
同社が制作に協力した映画「種まく旅人~華蓮(はす)のかがやき~」の公開に合わせ、今年3月27日、野々市市にぎわいの里ののいちカミーノで開催した「れんこんFES」でお披露目した後、同社サイトのほか、むつぼしマーケットやカジマートで販売を開始。「食べやすくて便利」「生と同じようにおいしい」「いつもの料理に入れるだけで栄養バランスがよくなる」など好評を得ており、売れ行きは好調だ。
今年9月には県が新規性や独自性に優れた製品の販路開拓などを支援する「プレミアム石川ブランド製品」に認定された。
金沢でははす蒸しやすり流し汁など、レンコンをすりおろして調理する文化がある。しかし、いざ作るとなるとひと苦労だ。同社の社員がスーパーなど店頭に立っていると、消費者から「あんちゃん、すりおろしたレンコンないがかいね」と声を掛けられることもあった。
こうした声を受け、同社の宮野義隆副代表はおよそ10年前からすりおろしたレンコンを商品化するアイデアを温めていた。しかし、レンコンの加工品には土壌中のボツリヌス菌が付着し、食中毒を引き起こすリスクがある。そのため、開発には二の足を踏んでいた。
そんな宮野副代表が今回、開発に向けて舵を切った背景には「レンコンの消費量は減少傾向にあり、このままでは食べてもらえなくなるのでは」という危機感があった。
商品化のためには菌のリスクを何としても解消しなければならない。そこで、宮野副代表はISICOに相談し、チャレンジファンドの事前調査事業を活用して、さまざまな条件で菌数を調査した。
その結果、収穫後に冷蔵保存し、加工業者において皮をむいた後、食品の殺菌に使用される電解水につけ込み、すりおろせば菌による汚染を防止できることが明らかになり、商品化へのアクセルを踏んだ。
開発時には再びチャレンジファンドの支援を受け、ニーズ調査にも取り組んだ。主な購入者として想定する30代から50代の女性にモニターを依頼し、商品の形や大きさ、価格、パッケージなどについて率直な意見を寄せてもらい、開発時の参考にした。
例えば、「生産者が伝えたいレンコンの特長よりも、消費者が知りたい便利さを訴えた方がいい」という意見もその一つだ。そのためパッケージでは、キューブ状になっていることが分かるよう商品を手でつまんだデザインを採用した。
また、家事代行を手がける女性に、すりおろしたレンコンを使ったレシピを考案してもらった。商品を紹介する同社サイトでは、れんこんキューブが離乳食としても安心して使えることが紹介されているが、これも意見を取り入れたものだ。
「中小企業はなかなかこうしたことにお金を掛けられないので、とても助かりました。今後は不要という意見の多かったトレーをなくせるよう、工程を見直したいと思います」(宮野副代表)。
れんこんキューブは年間3万パックを目標に県内外で販路を拡大する方針だ。販促に向け、レシピコンテストの開催も視野に入れる。
加工品の開発はこれにとどまらない。送料が高くつく冷凍品のデメリットを解消しようと、現在、試験を行っているのがすりおろしたレンコンのフリーズドライ化である。最終的にはお湯を掛けるだけですり流し汁を食べられるようにするのが目標だ。
レンコンは栄養が豊富でアンチエイジングや美容にも効果があるとされている。金沢には母乳の出がよくなるよう、母親にすり流し汁を食べさせる風習も残る。地域の食文化を継承すると同時に、もっとレンコンを食べてもらえる機会を増やすため、宮野副代表らの挑戦が続く。
企業名 | 農事組合法人 One |
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創業・設立 | 設立 2013年2月 |
事業内容 | 水稲、レンコン、ニンニク、ジャガイモの生産・販売 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.119 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.119より抜粋 |
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掲載号 | vol.119 |