学生時代から「いつかは自分のお店を」と夢を描いていた金田美裕さん。東京から金沢へ移住し、2020年2月に婦人服のセレクトショップ「ME:YOU」をオープンした。開店以降、着実にリピーターを増やす金田さんがたどってきた軌跡と現在地とは。
ME:YOUは金沢市中心部のせせらぎ通りから歩いて3分、路地裏にたたずむ昭和の趣たっぷりのアパートの一室にある。秋らしいコーディネートを身にまとったマネキンが出迎えてくれる玄関を入ると、二つの大きな窓から陽光が差し込む10畳ほどのスペースにアウターやボトムス、アクセサリーなどがきれいに陳列されている。どれも最新のファッションに見えるが、金田さんが手間暇かけてリペアした古着も多い。
「わたしとあなたをお店のテーマにしています。お店とお客様の出会い、お客様とお洋服の出会い、今日までの自分とこれからの自分との出会いなど、わたしとあなたの素敵な出会いを提供したいと思っています」と話す金田さん。好みや要望に応えて服や着こなしを提案し、女性客が自身の新たな魅力に気付いて喜んでくれたときが、一番やりがいを感じる瞬間だ。
金田さんがファッションに興味を持ったのは中学生の頃。高校に入り、アルバイト代を手にアパレルショップや古着店を巡るうち、「私もこんなふうに人をワクワクさせられたら。いつかは自分のお店を開きたい」と夢を膨らませるようになっていった。
高校卒業後は、全国展開するカジュアルブランドなどに勤め、販売はもちろん、店舗の立ち上げや商品企画、国内外での古着の買い付けと、さまざまな経験を積んだ。転機となったのは、夢の実現に向けて準備を始めようと考えていた2018年に、友人と金沢を旅行したことだった。
「新旧の建物、文化が入り交じった雰囲気や街のコンパクト感、自然が身近にあるところにひかれ、ここで起業しようと決めました。お店を開くなら、古着も新しい服も売っていて、古着でも今っぽい着こなしを提案したいという私の考えともぴったり合うと思いました」。 「思い立ったら行動しないと気が済まないタイプ」と自己分析する金田さんは、帰りの新幹線で早速、金沢への移住や起業に関する情報を検索。東京に戻った後、いしかわ就職・定住総合サポートセンター(ILAC)が開催する説明会に参加した。この際、起業をサポートする機関として紹介されたのがISICOで、担当者のアドバイスを参考に、何度も東京と金沢を行き来しながら開店準備を進めた。
ISICOの支援の中で最も力になったのが事業計画書の作成指導だった。これによって漠然と抱いていたイメージが具体化し、経営をより現実的に捉えられるようになった。開店資金の融資を受ける際には、店舗の立地や地縁のなさを不安視する金融機関の声を綿密な事業計画書と熱い思いで跳ね返した。 念願だったME:YOUをオープンしたのは2020年2月である。2、3月は計画の2倍を売り上げ、順調なスタートを切った。集客に力を発揮したのはSNSだ。外国人観光客が足を運んでくれるなど、近隣のホテルやショップに置かせてもらったフライヤーも奏功した。入居するアパートでは、ほぼ同時期にスープ店やエステ店がオープンし、メディアで取り上げられたことも追い風となった。
しかし、4月に入ると状況は一変、新型コロナの感染拡大により客足がぱったりと途絶えた。アパレルショップは行政からの支援金の対象にもならず、苦しい経営が続いた。金田さんは当時について「まったくの闇。しんどかったですが、金沢の先輩起業家やISICOの担当者などの励ましが心の支えになりました」と振り返る。
その後、コロナに翻弄されつつも経営は持ち直している。もちろん、店を成長軌道に乗せるには課題もある。その一つは、開店前にメインターゲットと考えていた30代女性の来店が思ったよりも伸びないことだ。金田さんがその原因と考えているのが、東京と地方の30代のライフスタイルや価値観の違いだ。
「こちらの30代は既婚者が多く、子育て中の人も大勢います。住まいは郊外にあって、移動には車を使います。そういった女性にリーチできるよう情報発信や品ぞろえを工夫したいと思います」。 また、物を大切に使う意識の高まりやコロナ禍を契機に家で過ごす時間が増えたことを受け、洋服の収納に使うかごや手入れするためのブラシを販売するなど、暮らしにフォーカスを当てた商品展開を視野に入れたいという。
新天地でチャレンジを続ける金田さんにエールを送りたい。
企業名 | ME:YOU |
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創業・設立 | |
事業内容 | 婦人服のセレクトショップ |
関連URL | 情報誌ISICO vol.119 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.119より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.119 |