中小企業庁の「事業再構築補助金」は、ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するため、新分野への進出や業態転換にチャレンジする中小企業を後押しする制度だ。ISICOは認定機関の一つとして、これまで多くの事業者の申請をサポートしてきた。この中から、採択企業2社の取り組みに焦点を当てる。
ホクビは事業再構築補助金を活用して、中小企業を対象とした海外マーケット進出支援サービスの強化に乗り出した。この一環として、今年1月からスタートしたのが「8click(エイトクリック)海外配送」だ。
これは商品を金沢市内の倉庫に送るだけで、同社が輸出業務を代行してくれるサービスだ。大手国際輸送会社と提携することで、通常よりも格安の価格を実現した。例えば、160サイズ(箱の縦・横・高さの合計が160センチ以内)、30キロの荷物を送る場合、EMS(国際スピード郵便)で送ると60,500円かかるのに対し、同社のサービスならば38,275円で済む。この料金には、税関で必要となる通関書類などの作成代行費用も含まれる。商品到着までに生じる税関や荷受人とのやりとりも同社の専門スタッフが引き受ける。
利用したい企業は、配送したい商品や送り先、梱包した箱のサイズや重さ、数などの情報を専用見積もりフォームに入力して送信し、見積もり金額を確認後、荷物を倉庫に送るだけ。輸出についてまったく知識のない人でも、安く海外配送できる便利なサービスだ(詳細はhttps://8click.jp/haisou/)。
海外配送事業に先駆け、ホクビでは昨年12月、国内外からの受注情報を一元管理するITシステム「8click販売管理」をリリースした。最も大きな特長と言えるのが、インボイスやパッキングリストといった輸出者自身が作成しなければならない貿易書類を、取引条件を選択するなど、たった8回のクリックで自動発行する点だ。これらの書類を荷物と一緒に送れば、発送業務は完了だ。
また、顧客とのやりとりに使うチャットルームでは、支払いの督促、在庫切れ、価格変更など、輸出業務でよく使う文章を英語でテンプレート化。中学で習う程度の英語が分かれば、固有名詞や日付などを書き換えるだけで、顧客と簡単に会話できる仕組みを実現した。
これらの海外マーケット進出支援サービスの強みは、同社がこれまで積み上げてきた知識やノウハウが詰まっている点にある。
そもそも特殊印刷を得意とするホクビが、オリジナル商品の輸出を開始したのは2016年にさかのぼる。以前から歯ブラシのハンドル(柄)部分への印刷業務をOEMで請け負っていた同社では、下請けからの脱却を目指し、透明のハンドルの表裏に違うデザインを施す技術を開発して特許を取得。2015年に歯ブラシブランド「Qui boon(キブン)」を立ち上げ、翌年には小さな手でも握りやすいリング状のハンドルを採用したベビー用歯ブラシ「HAMICO(ハミコ)」を発売した。
人口減少が進む国内での販売だけでは先細るため、目を向けたのが海外市場である。プロジェクトを主導したのが佐藤優子専務だ。貿易に関する知見が皆無だったため、ジェトロを活用しながら予防歯科への意識が高いアメリカに販路を築き、その後、ヨーロッパやアジア諸国にも展開。これまで20カ国に累計200万本を出荷している。
「新規事業を成功させるこつはスモールスタート」と話す佐藤専務が、貿易業務や英語に長けた人材を雇用しなくても、自分たちが今までの仕事の合間に海外と取引できるようにと開発したシステムが「8click販売管理」の原形だ。実際、同社では英語が堪能ではない入社3年目の社員が、このシステムを使い、たった一人で貿易業務をこなしているという。
また、佐藤専務が貿易業務について調べていて感じたのは、実情とは違った情報が散見されることだった。国や地域によって法律や商習慣は違い、新型コロナの感染拡大など、諸事情によって今までのやり方が通用しなくなることもしばしばだ。その点、ホクビでは常時20カ国と実際に取引しているため、情報が常にアップデートされ、各種サービスにも反映される。 輸出にまつわるサポートを拡充するため、今年夏には金沢市本町で新たな拠点を整備。同社のオリジナル歯ブラシのショールームにするほか、8click海外配送用の倉庫も設ける。コロナ収束後は外国人のバイヤーによるテストマーケティングや商談、セミナーの場としても活用する計画だ。
「海外へ販路を拡大できれば、経営のリスク分散につながります。中小企業でも海外に自社商品を売るのは当たり前、そんな世の中を目指して仲間を増やしたいと思っています」と話す佐藤専務。商品開発からマーケティング、輸出まで、海外展開を目指す上でのさまざまなフェーズの困りごとについて、1年後には毎月20社、年間240社をサポートする目標を掲げている。
企業名 | 株式会社 ホクビ |
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創業・設立 | 設立 1985年4月 |
事業内容 | PB/OEM商品の製造と販売、特殊印刷事業 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.120 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.120より抜粋 |
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掲載号 | vol.120 |