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中小企業庁の「事業再構築補助金」は、ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するため、新分野への進出や業態転換にチャレンジする中小企業を後押しする制度だ。ISICOは認定機関の一つとして、これまで多くの事業者の申請をサポートしてきた。この中から、採択企業2社の取り組みに焦点を当てる。
金沢駅近くで料理教室を営む中田料理学園は、事業再構築補助金を活用し、“クラウドキッチン”と“シェアキッチン”を備えた「シェフズキッチン金沢」を整備する。これまで料理教室として使っていた自社ビルの2階、約90平方メートルを今年1月から改装し、3月のオープンを予定する。
クラウドキッチンとは、主にテイクアウトやデリバリー用の料理を作るための調理施設のこと。シェフズキッチン金沢では、3つのブースを用意し、それぞれに業務用のガスレンジ、オーブン、冷凍冷蔵庫、シンク、作業テーブルなど飲食店を開業する際に必須の厨房設備一式を備え付ける。また、作りたい料理に合わせて必要な設備を追加で設置できるスペースも用意する。利用は月単位の契約で、入居者が営業許可を取れば、すぐにでも自分の屋号で店を開くことが可能だ。
中田料理学園の3代目、中田誠二さんは「クラウドキッチンは北陸で初。テイクアウトやデリバリーの専門店を開きたい人はもちろん、いずれ実店舗を開業するために資金を貯めたい人などに利用してほしい」と話す。
一方、シェアキッチンは複数の人が共同で使う調理施設だ。電気オーブンやコンロ(ガス・IH)のほか、鍋やフライパン、炊飯器、蒸し器などを備え、時間単位で借りられる。
同学園が飲食店営業許可、菓子製造業許可を取得しているため、食品衛生責任者がいれば、作った料理や菓子、パンなどの販売が可能だ。将来、飲食店の開業を目指す人や自分の作ったものを試しに販売してみたい人の利用を想定するほか、イベント出店時の仕込み、料理の撮影などでも重宝しそうだ。従来からの料理教室にもこのスペースを利用する。
クラウドキッチンやシェアキッチンは通常、飲食スペースを設けないが、「シェフズキッチン金沢」ではより柔軟に活用できるよう、カウンター席のイートインスペースも設置する。
約7年前に父親から同学園の経営を引き継いだ中田さん。内装やホームページをリニューアルしたほか、レッスンの回数を増やして予約を取りやすくして売り上げを伸ばしたが、料理のレシピや作り方を動画で配信するサービスが台頭すると徐々に客足が遠のいた。
新たな収益源を求め、中田さんが2019年11月に始めたのが1日1組限定の宿「鼓」だ。それまで受付に使っていた1階のスペースを改修した部屋に150インチのスクリーンで迫力ある映像を楽しめるシアターシステムなどの設備を充実させ、女性グループや家族連れから好評を博している。
一方で、新型コロナの感染が拡大すると、料理教室の経営はさらに厳しさを増し、悪い月にはピーク時の1/6まで売り上げが落ち込んだ。こうした現状を打破しようと、中田さんが次の一手として企画したのがシェフズキッチン金沢だった。
「ニュースで見た東京のクラウドキッチンがヒントになりました。石川にはまだありませんし、コロナで苦労している料理人に喜んでもらえるのではと思いました」(中田さん)。
とはいえ、自己資金だけでは実現が難しい。そこで利用したのが事業再構築補助金で、申請にあたってはISICOが認定機関を務めた。中田さんは「事業計画書を作成したのは初めてでしたが、助言のおかげで、最初に自分が書いたものとは違い、分かりやすくまとめることができました」と笑顔を見せる。
クラウドキッチンのメリットは何と言っても少ない資金で、すぐに開業できる点にある。飲食店を開くには、厨房設備の購入や内装工事などで、1,000万円以上の初期投資が必要とされるが、シェフズキッチン金沢を利用すれば、月十数万円で出店が可能だ。
また、店舗を借りた場合、退去時には原状回復を求められ、多額の費用がかかるが、厨房機器の破損などがない限り、これも不要だ。
「一人で事業を始めると、いずれ限界を感じます。同じ空間をシェアしている仲間がいれば、お互いに刺激しあって成長につながります」と話す中田さん。自身も、これまで培ってきた経験を生かし、メニュー開発などに協力を惜しまないつもりだ。
シェフズキッチン金沢には、情報をホームページで公開後、既にいくつかの問い合わせが入っている。中田さんは「開業後、さらに多くのニーズが見込めるようであれば、物件数を増やし、事業を拡大したい」と意欲を燃やしている。
企業名 | 中田料理学園 |
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創業・設立 | 創業 1969年4月 |
事業内容 | 料理教室の運営 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.120 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.120より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.120 |