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ISICOのデジタル化設備導入支援事業は、AIやIoT、RPA、クラウドサービス等を活用し、生産性向上や事業拡大に挑戦する中小企業を資金面でバックアップする制度で、今年度は121社を採択した。巻頭特集ではこの中から2社の取り組みにスポットを当てる。
金沢駅周辺やひがし茶屋街で7軒の飲食店を経営するAll Dash Restaurant Systemsは生産性向上を目指し、配膳ロボット1台とモバイルオーダーシステムを導入した。今年2月から金沢市広岡2丁目のホテル内にある飲食店「旨い魚と野菜の金澤じわもん料理 波の花」で運用を開始する。
配膳ロボットは4層のトレーを備え、最大60キロを運搬可能だ。搭載するAIが店内のレイアウトや走行ルートをあらかじめ学習済みで、タッチパネルで指定するだけで、厨房近くの待機場所から各テーブルへ料理やドリンクを自動的に運ぶ。目的のテーブルに着くと音声で案内し、客がトレーから料理やドリンクを取り、ボタンを押すと待機場所に戻る。
モバイルオーダーシステムは、メニューに表示した二次元コードを客が自身のスマートフォンで読み取り、表示されたオーダー画面から注文するとその内容が自動的に厨房に伝わる仕組みとなっている。スマホ上で支払いを済ませることも可能だ。
「今までは座席に案内し、注文を取り、配膳するまで3回、店員がテーブルに足を運んでいました。配膳ロボットとモバイルオーダーシステムの導入により、店員が動くのは最初の1回だけでよくなりますから、大幅な業務の効率化につながると見込んでいます」。そう期待を寄せるのは同社の浦崇典社長だ。配膳のほか、宴会時などには食器の片付けにもロボットの利用を想定する。
従来、店員が担当していた仕事の一部をロボットなどでまかなえれば、今までに比べ、より少ない人数で店舗を運営できる。とはいえ、浦社長の狙いはそこではなく、おもてなし力を高め、店としての付加価値を上げることにあるという。
「波の花では、石川県産の食材や調味料を使った郷土料理とお酒を提供し、器も県の伝統工芸品を用いています。例えば、これらに関する背景やストーリーを接客しながらお伝えできれば、お客様の満足度が上がり、よりおいしく召し上がっていただけるでしょう。コロナ禍に加え、所得も伸びず、外食の機会は今後ますます貴重になるに違いありません。お客様の期待に応えられる店として成長し、生き残っていきたいと考えています」(浦社長)。
もちろん人手不足解消の一助としても期待をかけている。
同社が運営する各店では大学生のアルバイトをフロア業務の主力としてきたが、不特定多数の客と接する機会があるため、ここ2年は新型コロナへの感染リスクを心配し、人材が集まりにくい状況が続いている。「ピークの時間帯は猫の手も借りたい状況で、それが少しでも緩和できれば」と浦社長は話す。
夜の営業時間はマスクを外して長時間、飲酒する客もいて、店員からは「接客するのが怖い」という声も挙がっており、安心して働ける職場環境づくりにも一役買う。
このほか、客自身がスマホに注文内容を入力するため、店員が聞き間違えたり、伝票に誤って記入したりして発生していたオーダーミスも減少しそうだ。
また、以前は外国人観光客の利用も多く、コロナ収束後はインバウンド対応でも力を発揮するとみている。外国語に堪能でない店員が対応し、意思疎通がうまくいかずトラブルになることもあったが、外国語メニューを実装すれば、よりスムーズに注文できるようになる。
一方、店の利用者にとっても、注文時に店員を呼ばなくてよく、会計時の待ち時間が減るなどのメリットがある。
配膳ロボットやモバイルオーダーシステムの導入にあたって活用した「デジタル化設備導入支援事業」のほか、同社は今年度、ISICOの「新分野進出・事業転換支援事業費補助金」にも採択され、新事業としてドローンスクールの運営にも乗り出した。
宮崎や愛知、東京などでドローンスクールを展開する会社と連携し、浦社長と社員2人がインストラクター資格を取得した。主に施設の点検などでドローンを使う建設会社の社員らに操縦方法を教えている。コロナ禍による売り上げの減少を受け、飲食店以外に柱となる新事業を模索すると同時に、将来的には料理を宅配するフードデリバリー事業への参入も検討していく。
飲食店がデジタル技術を取り入れ、活用することで、どのような付加価値が生み出され、どのような成果が上がるのか。今後の同社の取り組みを注視したい。
企業名 | 株式会社 All Dash Restaurant Systems |
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創業・設立 | 設立 2011年 |
事業内容 | フードビジネス事業(和食店などの外食事業) |
関連URL | 情報誌ISICO vol.121 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.121より抜粋 |
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掲載号 | vol.121 |